玩具メーカーの品質業務ってこんな感じ――商品箱安全表示はメーカーの心の叫び :メーカー生産技術だったママのよもやま話

2025年09月10日

コラム

製造業ライターのおりも みかです。「メーカー生産技術だったママのよもやま話」では、主にプラスチック製品の開発時におけるドタバタエピソードや、子育てをしながら日々接するプラスチック製品に関するあれこれをお届けしています。

私は以前勤めていたメーカーで、おもちゃの生産技術や品質を担当していました。メーカーによって職種の名前は変わってくるかと思いますし、業務内容も違ってくるのではないかと思います。またメーカーではない方にとって、どんな仕事をしているのかが良く分からないということもあるかと思います。

そういうわけで今回は、プラスチック製玩具メーカーの品質業務とはどういうものかについてちょっとだけお話しますね。 

 

品質のお仕事 

以前の記事で、「おもちゃの安全基準(ST基準)とメーカーにはそれぞれ品質基準がある」というお話をしました。品質担当は、担当するおもちゃがこの基準に適合しているかどうかの検査・検証を行うのが主なお仕事。前回のレシピ検証もこの業務の一環です。もし検証段階で問題が出たら、設計担当やレシピ提案元の料理研究家などにフィードバックするというわけです。 

 

品質担当者の業務の1つに、印刷物の確認があります。ST基準には商品箱に記載すべき安全表示などの規定が定められているため、基準に照らして問題ないか確認するためです。また取り扱い説明書などを読み込み、子どもが分かりやすいかどうか、手順に誤解が生じないかどうかなどを確認します。 

前回のレシピ検討の際にも少し書きましたが、取扱説明書などに品質担当者からの追記を入れることもあります。品質担当をしていた私からすると、この印刷物の文章に企業の……さらに言えば品質担当者の考え方や思いが表れているなと感じています。 

 

ポエマー先輩は心配性

私に品質業務を教えてくれた先輩が、とにかく心配性でした。品質担当として心配性であることはプラスに働くとは思うのですが、心配性が過ぎるあまりに文章が長くなってしまい、スペースを圧迫してしまうことも。

ポエマー先輩

そしてなんと言うか、書く文章が詩的で、ダブルチェックで読むたびに感心してしまうのです。 なんともポエマーな先輩だったんです。

 

あるときなどは、赤ちゃん用玩具の警告表示の冒頭にはこのように書いてありました。

「この世に完全に安全なものはありません」

これを見て、ひっくり返りました。
そうなんだよ……そうなんだけど!!

品質担当者は、世界中の子どもの製品事故の情報を共有しています。おもちゃで子どもがケガしてしまったり、命を失ってしまう事故は世界中で発生しているのです。そのため品質担当を含めて製品事故リスクの洗い出し(リスクアセスメント)をすると、最終的に「どうやっても事故の可能性がある」となってしまい、話が前に進まなくなってしまうのです。時間とお金やその他諸々の兼ね合いで、安全対策が(品質担当者的に)万全と言えないまま進むこともあり、そういうときにはとくに印刷物の注意表記に品質担当者の心情がにじみ出てくるというわけです。 

この赤ちゃん向け製品は、初めて取り組んだ赤ちゃん向け玩具シリーズだったということもあり、品質担当の先輩は心配性のあまりこの一文入れたようです。

その後のシリーズには入っていません。なぜなら担当者が私になったから。

 

読まずに捨てないで……! 

おもちゃに限らず、製品印刷物の安全表示は品質担当者の心の叫びだと思うと、読むのが少し楽しみになるのではないでしょうか。 

メーカーが心を砕いて書いている安全表示。読まずに捨てるのではなくぜひ一度目を通してみてください。定型文の中に本音が見え隠れしているかもしれませんよ。 

プロフィール



⁠おりも みか
 新卒入社した玩具製造メーカーにて品質・生産技術担当として日本国内・中国工場での新規ライン立ち上げを経験。玩具、アミューズメント機器、医療機器、健康雑貨など主にプラスチック製品の開発・製造に携わる。結婚を機に退職し、現在は育児の傍ら製造業ライターとして活動中。
⁠TwitterID;@jilljean0506