トヨタ時代の電子部品開発から大豊工業の新領域へ【前編】:SPSインタビュー

2026年09月02日

コラム


トヨタ自動車で電子部品やハイブリッド車、電気自動車のユニット開発に長年携わってきた草深浩伸氏。現在は大豊工業株式会社の執行役員技術本部 本部長として、同社の技術部門を統括し、次世代に向けた新領域の開拓を進めています。

前編では、草深氏のトヨタ時代のお話を中心に、1990年代における出光興産やSPS樹脂との関わりについて紹介します。

今回は、当時、トヨタ時代の草深さんのもとに出光担当者として現地に通っていた、出光興産の森川さんと一緒にお話を聞きました。

森川さん 「トヨタに通っていた当時は、SPSの担当ではなく、PPSを納入していました」

材料メーカーと切磋琢磨したトヨタ時代

1990年代後半、草深氏はトヨタ自動車の広瀬工場内で、エンジンの点火用電子部品であるイグナイターや、インバーターの設計・開発の実務をしていた。

「材料屋さんは、“遠い存在”だと感じていました」と草深氏は言う。

通常、自動車メーカーの設計部門にとって、樹脂などの材料メーカーは間に成形メーカーを挟むため、直接やり取りをする機会が少ない存在である。

それが当時、出光興産の森川氏らは、毎週のように広瀬工場に通い、現場のエンジニアと直接ディスカッションを行っていた。

電子部品を保護するケースには、部品を封止するエポキシ系やシリコン系の接着剤との密着性や、温度変化による線膨張係数の調整など、シビアな要求があった。膨張の差が大きいと、内部の電子部品やはんだに影響を与えてしまうためである。

草深氏は、既存の材料を選ぶだけでなく、特性の調整について材料メーカーと直接議論しながら試作を重ねられたことは、非常に意義があったと振り返る。当時はPPS樹脂とともにSPS樹脂を用いた試作も数多く行われた。

「単に特性があるだけでなく、『ここの特性を抑えたものが欲しい』『もう少し柔らかいものが欲しい』など、信頼性を満たすための細かな要求を材料屋さんと直接会話できたのは大きかったです」(草深氏)

その後、自動車の電子部品開発はメガサプライヤーへと集約される流れとなり、厳格化された機密保持の観点などから、このエピソードのよう自動車メーカーの設計者が組織外の材料メーカーと現場で直接やり取りできる機会は減少している。

そして大豊工業へ――エンジン部品以外の新たな主力を創る

草深氏自身は、電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)における充電システムおよびユニット開発の責任者を歴任し、電動化対応の開発を進めた。

そして2023年、草深氏はエンジン用のすべり軸受を主力とする大豊工業へと赴任する。自動車の電動化が進展する中で、エンジン部品以外の新たな主力事業を構築することが求められていた同社において、草深氏はこれまでのシステム開発の経験から新規事業を牽引する役割を担った。着任後、社内で散発的に行われていた開発テーマを整理し、出口を電動車両向けとしつつも、自分たちのコアコンピタンスに立ち返って得意分野で勝負する方針へと切り替えた。


大豊工業の新領域とコアコンピタンス(出所:大豊工業)


大豊工業の技術基盤は、摩擦・摩耗・潤滑の科学であるトライボロジーを中核とし、材料開発、表面処理、異種金属の接合、精密ダイカスト成形、そしてCAE解析など、幅広い要素技術を有している。これらを活用することで、新しい領域の製品開発を進めることが可能だと考えている。

「大豊が長年培ってきた強みは活かさなければなりません。その強みを基盤にしつつ、『さすが大豊だよね!』と言われるような、過去の技術から一歩踏み出した製品開発を狙っていきたいと考えています」(草深氏)


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クルマのモデル変化と大豊工業の要素技術(出所:大豊工業)

大豊工業の開発方針(出所:大豊工業)

後編では、大豊工業が進める新領域の製品開発と、それを支える新たな開発体制、そしてSPS樹脂などの機能性材料に対する今後の期待についてお話しています。

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プロフィール

小林 由美(こばやし・ゆみ)
⁠ライター、編集者。町工場でのトレースや設計補助、メーカーでの設計製造現場での実務を経験。後、大手メディアの編集記者として約12年間、技術解説記事の企画や執筆の他、広告企画および制作、イベント企画など、幅広く携わる。2020年5月に個人事業 facetとして独立。