おりも みか 新卒入社した玩具製造メーカーにて品質・生産技術担当として日本国内・中国工場での新規ライン立ち上げを経験。玩具、アミューズメント機器、医療機器、健康雑貨など主にプラスチック製品の開発・製造に携わる。結婚を機に退職し、現在は育児の傍ら製造業ライターとして活動中。
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電子レンジ調理器具のレシピ開発でレンジを燃やした話:メーカー生産技術だったママのよもやま話
2025年07月15日
コラム
製造業ライターのおりも みかです。「メーカー生産技術だったママのよもやま話」では、主にプラスチック製品の開発時におけるドタバタエピソードや、子育てをしながら日々接するプラスチック製品に関するあれこれをお届けいたします。
前職ではおもちゃメーカーの生産技術・品質担当をしていました。私はかつてクッキングトイ(お菓子などを作れるおもちゃ)の担当をしていたことがあります。今回はメーカーの開発の裏側を少しだけお教えします。
メーカーの安全基準
おもちゃには日本玩具協会が認定しているST基準というものがあり、これに適合している製品には「STマーク」が付いています。
出所:日本玩具協会(https://www.toys.or.jp/jigyou_st_top.html)
よく外箱の後ろ側、バーコードやリサイクル表示、警告表示などがある場所についているので、目にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これはそのおもちゃが一定の安全基準を満たしているというもので、メーカーからすると安全面での必要最低限な基準。メーカーは各社でさらに独自の基準を設けており、全ての基準をクリアするために検査や検証が行われます。私はこうした基準を決めつつ、開発中の製品が基準に適合しているかの試験を同時に行っていました。
この基準の中身はメーカーごとに違うので、どんな項目があるのか、その試験方法や基準設定方法は自社のものしか分かりません。ただ、だいたいどこも大差ないのではないかと思います。おもちゃであれば、そのおもちゃで子どもが何回くらい遊びそうかを想定して基準を設定し、少なくともその回数を遊んでもおもちゃは壊れずに遊べるように強度などを設定して製造します。そして実際に耐久試験をして、壊れないかを確認するのです。
まあ実際、自分の子どもが生まれてみて、メーカーなんかが想定しているよりはるかに過酷な条件で使用されるわけですけど。それでもST基準を満たしているおもちゃであれば、そんなにすぐ破壊されることはないので、日本製おもちゃはやはり安全性にこだわっているなと感じます。
耐久試験の方法、それは「遊ぶ!」
例えば、積み木の耐久試験では、実際に積み木で遊びます。具体的には、積み木は何回くらい積み上げそうかの回数を設定します。そして、積み木を基準の形状に積み上げては崩し、積み上げては崩すのです。これこそまさに「積み木くずし」……遊ぶといっても、かなり退屈な試験です。
もちろん、機械で耐久試験をすることもあります。ただおもちゃで遊ぶという試験を全てやってくれるような高性能ロボットはまだまだ普及していないと思うので、ボタンを押すなどの単純な作業しかできません。複雑な耐久試験をするのは、やはり人間です。
電子レンジ容器は何回もレンジにかける
雑貨メーカーや食器メーカーの方がどう耐久試験をしているかは分かりませんが、おもちゃメーカーではクッキングトイも同じ扱い方です。
電子レンジにかける容器も、実際に何回もレンジにかけて耐久試験をします。中に水やジュースなどの材料を入れ、「X分加熱をn回繰り返す」という試験を行うわけです。お菓子を作るおもちゃの場合は実際にお菓子を作る耐久試験もします。これが非常に手間と時間がかかります。毎回材料は新しいものに変えなくてはなりませんし、容器が冷めるまで待たないといけないからです。
あるとき、グミを作るおもちゃの開発中、その耐久試験を行うことになりました。当時、私のチームで電子レンジを使ったクッキングトイの開発はあまり経験がなかったため設備がなく、電子レンジは食堂にあるものを使用することになりました。
私は試験方法と回数を設定して仕様書を作り、その作業を同期の男性社員にお願いしました。同期は「任せて!」と快く引き受けてくれました。
しばらくしてから様子を見に行きました。
同期はもうもうと煙が上がる電子レンジを前にウロウロしていました。
慌てて駆け寄ると、同期は気まずそうにこう言いました。「1分を何十回もかけるのは面倒だったから……。一気に10分かければ時間短縮になると思って」
そうです。彼は耐久試験をズルしようとして、ジュースを入れたプラスチック容器を長時間電子レンジにかけてしまったのです。その結果、ジュースが高温となり発煙したというわけでした。
「……試験は仕様書の通りにやってほしいのですが」
「すみません……」
食堂の電子レンジは多少焦げ臭くはなったものの、壊れるところまではいかなかったので二人で清掃して(焦げて溶けたプラ容器を掃除するのは大変でしたが……、上司と食堂のおばさま方にきっちりご指導を頂きました。
その後しばらくは、食堂でレンジを使うたびに別の社員に「焦げ臭い気がするな~」と小言を言われ続けたのは言うまでもありません。
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