激変する中国EVの産業構造に、どのように対応するか:ティータイム

2026年08月19日

コラム

本コラム「ティータイム」では、「自動車×プラスチック×脱炭素」を中核に活動するコンサルティング企業・Tech-T の高原忠良が、自動車関連の技術やビジネスの話題をお届けします。

前回も報告したように、中国の電気自動車(BEV)および合成樹脂の生産は、世界トップクラスの規模となっています。私たちプラスチックの専門家・関係者にとって、この動向から目を離すことはできません。中国BEVの動向を長年継続調査してきた私の視点から、少し解説します。

本稿は、昨年末の現地取材をもとにした解説です。中国の自動車産業構造は、いま大きく変化しています。


中国の自動車産業構造の変遷

BEVによる自動車産業の変革が本格化する以前、中国の自動車産業では、国営系または地方政府系の完成車メーカーがピラミッドの頂点に立っていました。基本的には、海外の完成車メーカーとの折半合弁が中心です。たとえば、上海VWや広州ホンダがその代表例です。

2000年代初頭からは、電池メーカーであったBYDの自動車事業への参入に加え、吉利汽車や長城汽車といった民営系メーカーも存在感を高めていきました。ただし、この段階の主役は、まだガソリン車でした。

大きな転換点となったのが、1980年代から開発が進められてきたBEVの市場投入を狙った「十城千台」計画です。これは、主要10都市でBEVを各1,000台規模で導入することを目指した政策で、同時に充電ステーションの整備も進められました。

こうした流れを受け、BEV拡大に勝機を見いだした新興メーカーが台頭します。いわゆる「新勢力御三家」と呼ばれる理想汽車(Li Auto)、NIO、小鵬汽車(Xpeng)です。これら3社はいずれも、もともとの事業領域にデジタル・情報系ビジネスとの接点を持っていました。中国政府のBEV拡大政策に呼応するように、2014~2015年にかけて自動車メーカーとして創業しています。その特徴を表1にまとめました。表1には、民営系メーカーの代表例としてBYDも加えています。

表1 BEV御三家と、代表的な民営系のBYD

ここで注目すべき点は、既存の自動車メーカーが単純にBEVへ移行したのではなく、異業種のフロンティア企業が非連続的に参入したことです。繰り返しになりますが、デジタル・情報系企業の参入こそが、中国BEV産業の大きな特徴です。

昨年の視察では、さらにもう一段進んだ変化を確認しました。IT企業が、自動車産業ピラミッドの頂点に立ち始めていることです。BEV新勢力をしのぐ勢いで、IT系企業が市場の主役に躍り出ています。

写真1は、その象徴的な場面です。IT系企業でありスマートフォンメーカーでもあるシャオミと、国家的なICT企業ともいえるHuaweiのBEVが、新勢力御三家の一角であるNIOのBEVを挟み込むように展示されていました。


写真1 上海近郊地方都市 蘇州での駐車車両 (撮影Tech-T)

写真2・写真3は、それぞれシャオミとHuaweiの店舗です。どちらも、スマートフォンとBEVを並行して販売しています。


写真2 シャオミショップで( 2025年11月、上海) 撮影Tech-T

写真3 Huaweiショップで( 2025年11月、上海) 撮影Tech-T

Huaweiは、HIMA(Harmony Intelligent Mobility Alliance)を主導し、完成車メーカーと連携しながら、自動車ビジネスの上位レイヤーに位置づけられています。従来は、完成車メーカー(OEM)の下にTier1、Tier2のサプライヤーが階層を形成していました。しかしHuaweiは、OEMのさらに上位に位置する存在として捉えることができます。いわば、Tier1の裏返しである「Tier -1(マイナス1)」とも言えるでしょう(図1)。


図2 OEMを従えたHuaweiの位置づけ、Tierー1(マイナスいち)

HIMAの昨年の販売台数は約60万台ですが、今年は100万台に達するとの見方もあります。この規模はトヨタの日本国内販売台数に匹敵し、ホンダと日産の日本国内販売台数を合わせた規模を上回る水準です。

壊滅的な日系メーカーの中国市場

ここ3年ほどで、日系を含む外資系メーカーの中国市場における販売台数は、極端に低下しています。

図3に示すように、中国国内販売におけるシェアは大きく変化しています。かつて4割程度であった中国系メーカーのシェアは7割を超える一方、日系メーカーは2割から1割へと半減しています。

図3 中国での販売台数 中国と日本のシェア 約3年の変化(22年2月⇒25年12月)

日系メーカーが新規に販売したBEVは、現地合弁会社との協業開発とされています。ただし、現地の中国系メーカーが開発した車両をベースに、日系ブランドのBEVとして販売している例も見られます。いわば、相手先ブランド供給に近い形態です。

それに伴い、車両を構成する主要部品や機能、たとえば電池や自動運転システムなどは、中国企業製を中心とする構成へ置き換わりつつあります。

日系サプライヤーにとっては、完成車メーカーの販売台数低下に加え、日系部品の採用率低下が重なる状況です。まさに二重の打撃と言えるでしょう。

(次回へ続く)


プロフィール




⁠高原忠良
(たかはら・ただよし) 

⁠2020 年にTech―T設立。
⁠「現地現物」の精神で部品分解調査や、中国・東南アジア現地取材をもとに、⾃動⾞産業の将来動向まで多領域で情報発信中。
⁠プラスチックや樹脂部品生産や材料の生産・開発に携わる自動車用途プラスチックの第一人者。 

⁠⁠1980 年、山形大学理学部卒。2008 年、山形大学理工学研究科卒(工学博士)。 
⁠⁠1980~1989 年、新日本無線(現:日清紡マイクロデバイス)。
⁠1989~2012 年、トヨタ自動車。
⁠2012~2018 年、サムスンSDIなどグローバル企業で勤務。 ⁠

⁠⁠2017-2025年、埼玉工業大学 客員教授など産学両分野で活躍。 

⁠セミナー・メーカー支援・中国視察ツアー・日経クロステックへの寄稿など幅広く活躍中。ホームページでも各種調査情報を元に、記事や動画を多数掲載 
https://www.tech-t.jp/ 

【筆者からお知らせ】

中国の現状、トヨタが取っている戦略、そして日系サプライヤーが取るべき方策については、以下のセミナーで解説しています。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

【オンデマンド】IT企業が塗り替える中国EVビジネス、トヨタの“対抗”戦略

⁠また、中国や樹脂に関心をお持ちの方は、中国でのELV動向にもご興味があるかと思います。前回もご紹介しましたが、7月初めに発刊したTech-Tの調査レポートも、ぜひ参考になさってください。
⁠                
【発刊案内】中国ELV関連政策・法制 調査レポート 2026 
【発刊案内】中国 自動車用再生樹脂・ELV関連企業 最新情報 2026