化石燃料依存から脱却する
2026年04月22日
コラム
ホルムズ海峡の実質的封鎖により、日本やアジアの石化・精製の現場では稼働調整圧力が強まっています。事態は緩やかに改善し、欧米などペルシア湾外からの輸入を増やすことで最低限の数量は確保する動きが進んだものの、代替手段として米国などから多く仕向けられているタンカーが運ぶものも、結局のところ化石燃料です。グリーンエネルギーや脱炭素が強く叫ばれる現代においても、いざ危機に直面した際に産業の血流として世界を動かしているのは、依然として石油由来の素材です。
一部には「中東からのナフサが細るなら、米国からエタンを輸入すればいいのではないか」という声もあります。確かにエチレンを生産するだけであればガス原料で事足りるかもしれません。しかし、日本のナフサクラッカーは長年ナフサを原料とすることが最も経済的であったため、原料をエタンに切り替えるには専用の桟橋やパイプライン、タンクの改修など莫大な資金と期間が必要となり、即効性のある現実的な選択肢とはなり得ません。
このように既存のインフラに縛られる中、今回の危機でアジアのナフサ相場が以前の約2倍に急騰した結果、素材市場には冷酷な市場原理が働いた。米国産のナフサも本来は西大西洋域内のガソリン原料の選択肢であったが、価格の高いアジアへ振り向けられています。
これは突き詰めれば、購買力のある国だけが高いコストを払って資源を確保し、購買力の低い国や産業の需要が制限され切り捨てられている状況を意味します。
化石燃料は経済的で汎用性が高く加工が容易であるからこそサプライチェーンに浸透してきたが、もはや「安価な素材」という大前提は崩れ去りつつあると言えます。
柔軟な調達の対応力と、代替材料の検討
一方で、この化石燃料への依存から脱却しようとするエネルギートランジションの歩みも決して止まってはいません。
前回触れた、日章丸事件において、出光興産は拿捕のリスクを冒してイランから石油を運び、戦後の日本市場に安価なガソリンをもたらしました。現在は、非化石燃料への転換という次なる課題に挑んでいます。同社は航空産業のカーボンニュートラル実現に向けて、持続可能な航空燃料(SAF)の国内供給体制構築を進めています。
日本政府は2030年までに国内航空会社の燃料使用量の10%(約170万kL)をSAFに置き換える目標を掲げており、同社は2030年までに年間50万kLの国内供給体制確立を目指しています。
出光興産では、廃食油などを水素化処理するHEFA技術(徳山事業所:25万kL規模)や、エタノール由来のATJ技術(千葉事業所:10万kL規模)など、複数のアプローチで非化石燃料の実用化プロセスを構築中です。しかし、長年培ってきた石油精製のインフラや知見を最大限に活用しながらも、化石燃料を代替し得る新しいエネルギーを本格的に社会実装するまでには、莫大な時間と投資が必要となるのが現実であります。
素材コストの倍増は、最終製品の原価計算や市場競争力を根底から覆すかもしれません。環境配慮という理想論だけでなく、化石燃料に過度に依存し続けること自体が大きな事業リスクであるという、現実的な視点が不可欠な時代に突入したといえます。
既存の安価なプラスチックや溶剤が安定的に手に入らなくなる未来を見据え、他の材料で代替できる用途については積極的に転換を図り、設計上の工夫で需要そのものを減らしていく無駄のないモノづくりへのシフトが強く求められているといえます。
また足元の資源不足をいかに凌ぐかという短期的な調達対応力と、中長期的な脱炭素・代替素材への移行という2つの視点を統合し、製品設計の根幹に据えること。それこそが、次世代の産業において真のイノベーションと競争力を生み出す原動力になるのではないでしょうか。
■参考


