
一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
>>執筆者サイト
SDV実現のための3つの課題 :自動車業界よもやま話
2025年09月03日
コラム

コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。
前回までに、SDVの概要やSDVによる変化について紹介してきました。今回は、SDVを実現するために解決しなければならない、いくつかの課題について紹介します。
中央集中型アーキテクチャ実現に向けたECUの再構築
従来、自動車には数十個のECUが部品ごとに分散して搭載されており、それぞれが独立して動作していました。例えば、ブレーキ制御はブレーキ部品に搭載されたECUが、トランスミッションはトランスミッション部品に搭載されたECUが、ステアリングはステアリング部品に搭載されたECUが制御を行っています。
しかし、SDVで採用されるのは中央集中型のアーキテクチャです。機能ごとにECUを分割するのではなく、高性能なプロセッサが複数の機能を担い統合制御を行います。複数のECUで行われていた制御を統合するには、大きな課題があります。例えば、どのような順番で演算を行えばよいか調整する対象が大幅に増加する点が課題です。また、これまで部品が分かれていたことで、1つのECUが故障しても他の部品がフェールセーフ性を確保できていましたが、1つのECUに複数の機能を統合する場合は別の手段でフェールセーフ性を確保する必要があります。
また、部品ごとに責任を持つ企業が異なるため、異なる企業間で1つのECUに書き込むソフトウェアを開発するには、これまでにない企業間の連携が求められます。
継続的にアップデートされるソフトウェアの開発体制
車載部品のソフトウェア開発は一般的に、各車両の試作フェーズごとに行われ、量産後に定期的なソフトウェアのアップデートを行うことはほとんどありません。改良やマイナーチェンジ向けに開発が行われることはありますが、SDVでは、さらに高い頻度で継続的なソフトウェアのアップデートが必要になる可能性があります。
多くのサプライヤーでは継続的なアップデートを可能にする開発体制が整っておらず、開発プロセスの見直しに加え、ソフトウェア人材の増強が不可欠です。また、自動車メーカーのソフトウェア開発計画の立案方法や、サプライヤーの対応範囲についても見直しが必要になるでしょう。
個別車両にしか適用されない独自のソフトウェア機能・構造を廃し、共通点を増やすことで開発工数を削減する必要も生じます。こうして生まれた時間を、新たな機能の開発に充てることができれば、競争力の強化にもつながります。
OTAとサイバーセキュリティー
本連載でも触れてきたOTAやサイバーセキュリティーの観点でも、SDVの実現によって大きな変化が生じます。
例えば、継続的なソフトウェアのアップデートを行う際、毎回ディーラーに車両を持ち込んで更新を行うのは現実的ではなく、OTA(Over The Air)の活用が想定されます。OTAの利用頻度が増えることで、OTAで書き込んだソフトウェアにバグが含まれていないかの確認や、OTAによるアップデート時のセキュリティー確保の重要性が高まります。従来の認証制度では対応しきれない部分もあるため、法規制の整備と並行して、各社が主体的な対策を講じることが重要です。
また、SDVでは車両が常時クラウドと接続され、車両外部との通信が活発になります。これに伴い、ネットワークを悪用したハッキングやリモート攻撃の脅威が増すため、個人データの管理についても、さらなる強化が必要です。
OTAやサイバーセキュリティーについては国際的な法整備が進められていますが、国・地域ごとに規制が異なる場合もあります。あいまいな法規の適切な解釈や、異なる規制への対応は、自動車メーカーや車載部品サプライヤーにとって大きな負担となるでしょう。
SDVは、車両ユーザーにとって利便性が高く、機能追加も容易で、自分のクルマを育てていけるという魅力的な取り組みです。一方で、今回紹介したような課題もあるため、SDVの実現はまだ限定的であり、広く普及するまでには時間がかかるでしょう。
次回の記事では、SDVに対する国内外の動向や今後の展望を紹介します。
プロフィール
