餅は餅屋だが、いろいろな餅屋がいます(その1):自動車メーカーの開発現場から 

2026年03月25日

コラム


⁠30年ほど自動車メーカーでエンジニアをやっています。ここ数年会社外での活動が増えてきたのですが、自動車会社を外から見直すと、新たな気づきが得られたりもします。「自動車メーカーの開発現場から」では自動車に関わる「軽めな」こぼれ話をご紹介できればと思っています。

ここ数年、自宅の一室を物置代わりに使っていたのですが、娘が持っていたぬいぐるみがその部屋の窓際に置いてありました。片付けたときにレジ袋に入れておいたみたいなのですが、先日ふと見ると、レジ袋がボロボロというか、粉々になって、ぬいぐるみの周りに降り積もっていました。その状況から見て、おそらく窓から差し込む日光で分解してしまったようです。

レジ袋は低密度ポリエチレンなので、紫外線にあたると劣化することは知っていましたが、まさか家の中でマイクロプラスチックになってしまうとは思ってもみませんでした。 

「変わらないものなどない」と聞くけれど 

自動車業界は「100年に一度の変革期にある」とよく言われます。特にCASEというキーワード――Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング・サービス)、Electric(電動化)、――で象徴されていますが、こうしたパワーワードは確かに注目を集めていますし、自動車業界での価値観もモノからコトへという変化にさらされていると実感されている方も多いと思います。

こう書くと、自動車会社のエンジニアが全員CASEに関わっているような気がするかもしれませんが、そんなことはありません。もちろんそうしたパワーワードそのものの機能を搭載した新型車の開発には関わりますが、自分の仕事が急に変わる(変えられる)わけもなく、日々の開発に追われております。CASEが来なければ自動車はずっと変わらないのかというとそうではなくて、もっと短いスパンでも自動車は徐々に変わってきました。 



この変化を「素材」という切り口からみてみましょう。筆者が入社した30年前は、自動車の構成材料は鉄系金属が80%で、残りがアルミニウムや銅など非鉄系金属、ゴムやガラス、布などの非金属素材だと言われていました。鋼板でできている自動車のボディや、搭載部品で一番重いエンジンや変速機など、とにかく鉄の塊という感じですね。

それが最近は軽量化のために重い鉄の部品をアルミニウム製のものにしたり、それほど強度が必要でない部分にプラスチックなど樹脂製の部品を採用したりしています。エンジンや変速機、足回りの部品にもアルミが多用され、カバー類は樹脂製になっています。燃料タンクも一部の車種では樹脂タンクを採用していますが、これも昔では考えられなかったことです。

このように徐々にですが鉄系金属の占める割合が下がって70%、非鉄系金属が少し増えて10%、樹脂などの非金属素材は大幅増の20%程度とも言われています。これは重量比なので、鉄の比重が7.8、アルミが2.7、樹脂の比重が1前後であることと考えると、使われている部品の体積比は、あくまで単純計算したイメージですが、鉄系金属:非鉄系金属:樹脂等が3:1:6くらいになるのでしょうか。つまり自動車の半分以上が樹脂を主とした非金属製になっているといえるかもしれません。 

ひとくちに「樹脂=プラスチック」といっても……

自動車に使われているプラスチックには、内装外装など目につくところにはポリプロピレン(PP)が多く使われ、クッション材など柔らかい部位にはポリウレタン(PUR)、強度が必要な部品はABSなど、さまざまな種類があります。2005年1月に「リサイクル法」が施行され、解体時の分別を容易にしてリサイクルしやすくするため、重量100gを超える樹脂部品(ゴムは200g以上)に「材質マーキング」を行うことが定められました。あまり目にする機会はないかもしれませんが、プラスチック製の部品の裏側などに「>PP<」とか「>PC―PET<」のように不等号で囲まれた材質表示記号がエンボス加工で刻印されています。

筆者は樹脂製部品を使うことはあっても自分で設計したことがなく、それほど素材に詳しいわけではありませんが、確かに記号で書いてあれば間違えることはないのかもと思います。でも、これは刻印がちゃんと読めればという前提?で、部品が割れてたり欠けたりして、どんどん小さくなっていくと、もう私のような素人にはわかりません。 

もうかなり前のことになりますが、実験部のあった建物に行った時に、市場から回収した部品を調査するための作業机が並べられている場所があるのですが、その机の上に粉々になったガラスのかけらをジグソーパズルのように並べている人がいました。

あまりに気になったので、何をしているのかと聞いたところ、

「車のガラスが突然割れた、という報告がきたので、現品を回収して調べている」と。

「うわ、これは大変ですねえ」と言いながらも、

<いやいやいや、もう少し原型をとどめていればいいのに、なぜバラバラの粉々? そのジグソーパズル、無限に終わらない気がするけど?>

……などと思いながら、邪魔しては悪いので早々に立ち去りました。

でもあの人はきっと自分が設計したガラスだから、割れ方を見ればどんな応力が加わったのか分かるはず、という思いがあって、黙々とパズルを並べていたんだと思います。

後日、そんなことがあってね、という話を、当時材料関係の先行開発をやっていた同期に話したところ、

「ガラスのことは知らんが、プラスチックの種類なら粉々でも分かるよ」

という。

「どうやって?」と聞いたところ、「プラスチックの破片をライターで炙って燃やすと、種類によって燃え方や火の色、臭いが違う」というんです。

「PPはロウソクみたいな臭いがしてABSはゴムが燃えたような臭いがする」と彼。

様々なプラスチックもちょっとした炎の色の違いで見分けられると教えてくれました。

もちろん有害なガスがでる場合もあるので、正しくはドラフター(排気装置)のあるところでやるらしいのですが、樹脂には疎い私にとっては新鮮な驚きで、やっぱり餅は餅屋だなあとしみじみ思いました。どんな業界でもそうでしょうが、派手さはなくてもきっちりと仕事をこなせるのは、やはりプロだなあと感じますね。次回はそんなプラスチックのプロに助けてもらったお話です。(続く) 

 

プロフィール

後藤 銀河(ごとう・ぎんが)
自動車メーカーで電子設計関連のエンジニアとして数十年勤務。その後、海外勤務の経験を生かしつつ、主にフリーランスのテクニカルライターとして活動中。