インド自動車サプライチェーンの実態と高機能材料の展開
2026年06月24日
コラム

国内の自動車関連企業においては、インドを有力な市場であると考える他、新たな生産拠点としても注目しています。
本記事では、ジェトロによる「インド自動車産業サプライチェーン実態調査(2026年2月)」より、インド自動車市場で求められる要素技術や設計開発などについて解説するとともに、出光興産におけるインド企業とのSPSでのパートナーシップについて取り上げます。
インドでは、現地の製造能力だけでは対応が難しい精密加工、新素材の適用、システム化された品質・工程管理などにおいて、日本企業の技術的優位性が重要視されています。
インド自動車市場の技術的トレンド
インドの自動車産業は年平均成長率(CAGR)6.2%で成長し、2023年度の市場規模は約2,400億ドルに達しています。政府の見通しでは、2026年度には約3,000億ドルに拡大する見込みとのことです。またインドにとっての自動車産業は、製造業GDPの約40%を占める重要産業となっています。
またインドにおいては、コロナ禍で年平均成長率(CAGR)の落ち込みが見られたものの、政府支援と需要回復により、コロナ前の水準にすでに回復。2024年度の生産台数は約506万台であり、2020年度から2024年度にかけて年平均成長率13.4%で成長しています。

インドにおける乗用車生産の概況(出所:ジェトロ)
インドの乗用車市場では、消費者の嗜好変化により、多目的車(SUV/MPV)の需要が全体の65%を占めるまでに拡大しています。パワートレインの動向としては、長期的にはEVへのシフトが進む見込みですが、今後5〜10年程度は内燃機関(ICE)およびハイブリッド車が主流となる予測です。
特に直近の課題として、2025年4月からE20燃料(エタノール20%混合ガソリン)への対応が義務化されるほか、CNG(圧縮天然ガス)車の普及も進んでいます。これに伴い、エンジン周辺部品においては耐腐食性や耐摩耗性の向上、材料強化などの仕様変更対応が必要とされています。また、ハイブリッド車向けには既存のエンジン系、排気系、駆動系部品の継続的な技術活用が見込まれています。
求められる要素技術と加工ノウハウ
インド国内の部品サプライヤー(特にTier2・Tier3レベル)は、ミクロン単位の精密加工技術に課題を抱えています。そのため、以下のような技術分野でのニーズが高まっています。
モーターや駆動系の高回転化に伴う、安全性および静音性を確保するための高精度な鍛造部品、ギア、精密小型部品の技術が求められています。
EVやハイブリッド車向けの軽量化部品に対する需要拡大も見込まれています。特に、インド国内では加工が難しいとされる高張力鋼やマグネシウムの加工技術などです。
インドでの国内生産が困難な耐熱グリースなどの特殊材料や、それに付随する高精度部品の供給も挙げられます。

インド市場の成熟度と参入の有望分野:日本の中堅・中小企業に参入余地が(出所:ジェトロ)
設計開発プロセスにおける要件と課題
インドの完成車メーカー(OEM)は、サプライヤーに対してコンセプト段階からの共同設計を望んでおり、OEMのR&D部門と連携して部品のカスタマイズ要求に柔軟に対応できる能力を求めています。
一方で、開発サイクルにおけるミスマッチのリスクも指摘されています。インドのOEMはマイナーチェンジを含め6カ月ごとの新モデル投入を要求するケースがあり、この速い開発スピードに追随できる体制の構築が課題となります。
品質管理と生産プロセスのシステム化
製造現場の品質保証体制について、インド国内の下位サプライヤーでは、紙ベースの管理や属人的な運用が多く、品質や納期の不安定さが課題となっています。
この課題に対して、ERP(統合基幹業務システム)やPLM(製品ライフサイクル管理)システムを活用した品質トレーサビリティ管理や、品質・プロセス管理のデジタル化への対応が求められています。高度な自動化技術やデジタルツールを活用した安定生産の実現が、現地での品質基準達成に寄与するとされています。
SPSとインド市場
インドの自動車産業では軽量化や電動化に伴う新素材の適用、および高度な技術の需要が高まっています。

基本合意書(MOU)調印式にて
出光興産でも、高熱や高電圧に耐える特性を持つSPS樹脂のインド展開に向けて、インド現地の樹脂加工メーカーであるアロック・マスターバッチズ(ALOK)と協業の検討を開始しています。今回の協業では、出光興産が主にマレーシアで製造したSPS樹脂を供給し、コンパウンド技術に強みを持つALOKが現地での加工と販売を担います。
ALOKの販売網を活用することで自動車や家電分野への展開を見据えており、2026年中の販売開始を目標としています。
このような現地企業とのパートナーシップによるアプローチで、現地の製造能力では対応が難しい新素材や特殊な技術を提供し、インド市場における事業基盤を確立する狙いがあります。
今後のインド自動車市場においては、このような日本の技術的な優位性と現地企業のネットワークやノウハウを掛け合わせた協業戦略がより重要になると考えられます。
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