e-Axleの小型化に伴うエンジニアリングプラスチックの性能要求:e-Axle向け高電圧樹脂部品の設計(1)

2026年01月21日

コラム

合成燃料容認などの事情から欧州を中心としてBEV推進が鈍化傾向であるものの、電動化の流れ自体は継続しています。自動運転技術開発の競争についてはますます激化し、機能開発や実証が進む中、車載部品への要求も一段と高まっています。

本連載では、自動車の電動化や自動化の普及および機能開発の激化によって、車載部品・材料への要求がどのようなものか解説していきます。今回は、e-Axleの小型化や高周波ノイズ対策、材料特性の観点から説明します。(⁠⁠⁠一之瀬 隼)

  

目次

-電動化に伴う高電圧系統の影響
-車両重量増加に伴う軽量化のニーズ
-e-Axleの進化と小型化における課題
-材料置き換えにおける課題
⁠-自動運転・高速通信の実現に向けた誘電特性 要求の変化
⁠-車載でますます活躍の場が広がるエンプラ

  
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電動化に伴う高電圧系統の影響

車両の電動化を合理的に進めるためには、高電圧化が必要です。例えば、モーターを駆動させるためには電力が必要であり、高電圧化を行うことで必要な電流を減らすことが可能です。その結果として、配線の発熱量低減、配線の軽量化や設計自由度向上、インバーターやコネクターの小型化につながります。また、急速充電性能や高出力化を実現するためにも高電圧化は必要不可欠です。

  

こうした背景から、BEVはPHEVなどの電動車では400V級や800V級、将来的には1000V級を見据えた高電圧系統が検討されています。特に電気系統で用いられることの多い樹脂材料には、トラッキングや熱劣化・加水分解、誘電特性の悪化などさまざまな課題が生じます。

トラッキング(炭化導電路)は、湿気や油分、塩分が付着した状態で電位差がかかると、樹脂材料の表面が炭化し電気が流れてしまう現象です。電動車が普及することで多様な地域や天候で走行する電動車が増えます。その結果、トラッキングによって事故や火災のリスクが大きくなります。そのため、トラッキングしにくい(CTIが高い)材料は不可欠となります。

絶縁破壊強さと耐トラッキング性⁠※(出所 出光興産):
SPSは、絶縁破壊電圧と耐トラッキング性のバランスに優れる。
⁠高電圧環境下でも使用でき、絶縁性が良好で電気が流れにくいため、​
⁠沿面距離の短縮による部品の小型化や薄肉化が可能だ。

  

ここで重要なのが、国際電気標準(IEC)のガイドライン(IEC 60664-1)に基づく沿面距離の設計ルールです。材料はCTIの値によってグループ分けされており、それぞれに必要な沿面距離が決められています。クラスⅠのSPSグレードと、クラスⅢbの標準PPSグレードでは、800V電源環境においてはSPSを用いることでPPSよりも端子間距離を約3.8mm短くできる計算になります。また3相の場合では、合計で約7mmの小型化につながる可能性があります。こうした特性は、高電圧の端子が並ぶコネクターやモールドバスバーをよりコンパクトにまとめたい場面で有効です。

沿面距離について⁠※​(出所 出光興産):
⁠汚染度2の環境下において、S834はPPSよりも沿面距離を短くできる。

  

また、車載部品で多用されるPA系は、高温・高湿環境下で熱劣化や加水分解が発生しやすく、寸法変化や絶縁性能の低下につながります。高電圧化が進むほど、わずかな漏れ電流や絶縁低下が致命的な故障モードに直結するため、使用する樹脂材料が「吸水しづらく、加水分解が起こりにくい」ことも重要です。

SPSは、85℃・85%RH(相対湿度)という過酷な高温高湿環境で3000時間保持した後でも物性をほぼ維持できます。さらに、試験片に電極を刺して吸湿前後の絶縁抵抗を比較すると、PPSでは吸湿後に絶縁性が3桁低下するケースがあるのに対して、SPSでは1桁の低下にとどまります。高電圧環境下で長期にわたって安定した絶縁性を維持しやすいという点では、SPSは高電圧部品の信頼性確保において有力な候補の1つになります。

絶縁特性:湿熱処理後の絶縁抵抗⁠※(出所 出光興産):
⁠SPSはPPSに比べ、湿熱処理後の絶縁抵抗の低下が小さく、良好な絶縁抵抗を示す。

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高電圧回路を実現するためのバッテリー周辺では120℃程度の高温雰囲気環境が生じるため、材料選定には注意が必要です。

このような要求性能の変化から、従来は汎用プラスチックが使われていた箇所をスーパーエンジニアリングプラスチックに置き換える機会が増えています。特に電動化車両への採用において注目する性能としては、吸水・吸湿による寸法変化や誘電率の変化があります。

  

車両重量増加に伴う軽量化のニーズ

車両の電動化によって、車両重量の増加が懸念されています。ICEと比較してBEVの方が高グレードに位置づけられ装備面では充実している傾向があります。そうではあるものの、例えば国内大手のある車格の車両の場合、ICEよりもBEVの方が約300kg程度重いことが分かります。車両重量が増加することで、エネルギー消費、タイヤ摩耗、制動距離など、さまざまな課題が生じます。

機能を維持・向上させつつ自動車を軽量化するためには、部品の小型化や金属から樹脂への置き換えなどが期待されます。SPSは同じクラスのエンプラと比較して比重が約20%程度小さいため、同一形状でも樹脂部品自体の軽量化に寄与できます。金属部品を樹脂に置き換えることによる軽量化と合わせて、車両全体の重量増加を抑制するための有効な手段となります。ただし、これらを実現するには、機械特性や耐熱性、電気特性を含めた総合的な設計検討が必要であり、単純な材料置き換えでは対応しきれない場合も少なくありません。

比重の比較⁠※(出所:出光興産)

  

  

e-Axleの進化と小型化における課題

特に電動車における部品小型化として近年注目されているのが、e-AxleやX in 1のシステムです。それまでモーター、インバーター、減速機が別ユニットであったところ、物理的に1カ所に統合された結果、部品間の距離が近くなります。高電圧部品と通信ラインの近接してしまうことでノイズ干渉が生じやすくなるリスクが高まります。

ヤマハ発動機が開発中(当時)のe-Axle(出所:ヤマハ発動機)

  

例えば、モーターやインバーター、減速機(ギアボックス)の部品を1つのユニットに統合した3 in 1が現時点の主流になりました。3 in 1の技術は、2010年代後半に、BEV市場の急速な拡大に伴って部品の小型化や組み立て性向上を目的に開発されました。複数の部品を統合することで、小型化や軽量化を実現しています。

近年は、さらにDCDCコンバーターやオンボードチャージャー、バッテリーマネジメントシステムなどを統合した8 in 1などの開発も進められており、今後量産車にも搭載されていくと考えられます。



「8 in 1 パワーシステムアッセンブリー」を搭載した「BYD ATTO 3」  出所:BYD

  

統合化の流れを象徴する例として、トヨタグループのe-Axleがあります。第1世代から第3世代への世代交代の中で、アクスル全体の体積はおおよそ2分の1程度まで小型化されています。体積が半分になるということは、筐体内部の空間的余裕も大きく削られることを意味し、モーターや減速機、インバーターの周囲に配置される高電圧コネクターやモールドバスバー、各種センサー、冷却用オイルガイドなども、限られたスペースの中に高密度に配置せざるを得なくなります。


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BluE Nexus、アイシン、デンソーが共同開発したe-Axle(フロント向け)(出所:デンソー

  

一方で、複数の部品を統合し小型化を実現するためには、さまざまな課題が生じます。例えば、物理的に統合されることで部品間の距離が近くなるため、発熱・放熱に関する課題が生じます。モーターや電源に加え、抵抗器などは発熱源となり、部品間の距離が近いことから統合前のように放熱することもできません。統合する部品次第では従来よりも高温環境でも安全に機能を実現できることを確認する必要が生じます。部品の形状や駆動方法などの工夫を行っても発熱自体を完全に抑えることは現実的ではないため、耐熱性の高い材料への置き換えや放熱性の向上が必要不可欠です。また、部品間の距離が近く高い精度での組立が求められるため、材料には高い寸法精度や寸法安定性も必要とされるでしょう。

  

材料置き換えにおける課題

軽量化を目的とした材料の置き換えとして、金属を樹脂に置き換えるような取り組みが増えています。自動車には多くの鉄やアルミなど金属材料が使われており、その中で樹脂でも必要な性能を満たせるものについては、樹脂への置き換えが進んでいます。具体的な特性としては、強度や耐熱性、寸法安定性、コストなどが挙げられます。

一般的に、強度や耐熱性は樹脂と比較して金属の方が優れていることが多いため、高強度・高耐熱性が求められる箇所の置き換えは難しいでしょう。一方で、発熱部品から少し離れた場所などであれば耐熱性の高い樹脂への置き換えも可能です。SPSは比重の低さと電気特性の良さを両立しています。

金属から樹脂への置き換えには、軽量化以外にもメリットがあります。例えば、射出成形などで一体成形を行うことで部品点数の削減が期待できます。また、置き換え前の金属は持っていなかった絶縁性や耐腐食性などの性能が改善できるため、追加工が不要になってコスト削減にもつなげられます。


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自動運転・高速通信の実現に向けた誘電特性 要求の変化

高性能で安全性の高い自動運転を実現するためには、自動運転に関係する各部品間での大容量な通信を高速で行う必要があります。また、車両のデジタル化が進むにつれて車内外との通信量は増えており、今後の拡大が見込まれます。

特に、ITネットワーク用をベースとして自動車向けに最適化されたEthernet規格である100BASE-T1や1000BASE-T1 Ethernetの普及による影響が大きいです。これらの規格では、車載環境で求められる耐ノイズ性や軽量化・振動特性などを考慮して設計されています。

一般的に用いられている車載通信規格であるCANやLIN、FlexRayなども制御通信を行うには十分でしたが、自動運転や周辺監視のために用いるカメラ映像やLiDARデータ処理、地図やOTAデータの更新などの情報通信を行う際には、帯域不足・各調整不足となってしまいます。そこで、高帯域で遅延が少なく、標準化しやすいEthernetが車載領域へ採用されました。

車載Ethernetのような高速通信において信号は、高周波電気波として電子基板やコネクター、絶縁部材表面の表面を伝播します。これらの部品に用いられる材料の誘電率や誘電正接特性が信号の信頼性に大きな影響を与えるため、誘電特性が重要です。

Dk(比誘電率)は電場が材料にどの程度影響を受けるかを示しており、この値が小さいほど信号の遅延が少ないことを意味します。また、Df(誘電正接)は信号が熱として失われる割合を示しており、この値が小さいほど通信ロスが小さいことを意味します。

狭い筐体内での信号品質を確保するためには、寄生容量(浮遊容量)を抑える特性が求められます。このような用途では、PPAやLCPなどに対し、より誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が低い材料を選択する場合が多いです。低Dk・Df を備えたSPSもまた、有効な選択肢です。

SPSは優れた誘電特性を有し、ニートでは誘電率(Dk)2.4、誘電正接(Df)0.0003です。これは一般的なPPS(Dk=4程度)と比較しても低い値を示します。また、吸水率が極めて低いため、高湿環境下でもこれらの誘電特性が変動しにくいという特性があります。

  

車載でますます活躍の場が広がるエンプラ

自動車の電動化・自動運転化の進展は、単なるパワートレインの変化や機能向上だけに留まりません。車載部品やその部品に用いられる材料、設計思想そのものを再定義するような大きな転換点となっています。高電圧化や高速通信、複合機能化や、サステナビリティなど従来とは異なる制約条件が増え続ける中で、求められる機能を実現できる材料の選定や部品・機能の設計開発が必要です。

今後は、信頼性と環境性能を満足しつつ、高いコストパフォーマンスを実現しながら求められる要求を満たせるかどうかが、企業競争力の大きな差別化要因となるでしょう。

特に、従来の汎用エンプラでは対応できない領域が拡大する中で、SPSなどエンジニアリングプラスチックのような高性能材料が次世代の車載部品を支える存在になり得ます。

次回の記事では、車載部品における金属インサート成形と長期信頼性について解説します。(次回へ続く)


※出光興産の技術資料について

・記事内に掲載したデータ及び記述はザレック™を用いた製品の設計の参考です。本資料に記載の内容は信頼出来るテストと情報に基づいていますが、データおよび記述を絶対的なものと見なさないで下さい。個々の製品に適用する場合は、その設計の妥当性を必ず別途確認して下さい。本資料は記載内容の適用結果を保証するものではありません。

・本資料に記載の内容は信頼出来るテストと情報に基づいていますが、ご使用の用途における結果を保証するものではありません。

プロフィール



⁠⁠一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
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