現場体験とデジタルの力の合力で新人を早く即戦力にする――射出成形品設計の思い出話
2025年10月08日
コラム

こんにちは、編集担当の小林です。
私は実は、今のように技術畑の編集者になる前の、昔々ですが、産業機器の部品設計チームに数年ほどいたことがありました。工業高校や工業大学を出たわけではありません。ものづくりが特別好きだったわけではありません。当時は、たとえ未経験でもトレーサーなら採用してくれて、給料がそこそこ良かったからです。
今回は、そんな私を助けてくれたのが、現場の先輩たちとCADであったことと、そして射出成形の現場を直接見られなかったことへの少しの後悔について、書こうと思います。
射出成形のことが結局、腑に落とせなかった設計者時代
私は、町工場での産業機械のトレーサーを経て設計アシスタントを3年ほど経験し、その後転職して産業機器の設計部隊に配属されました。量産品の設計部隊だったので、そこで初めて射出成形品の設計にかかわることになりました。
それ以前に設計していた産業機械は、板金や切削による直線的な部品を組み合わせた、一品一葉の産業機械でした。射出成形品のことは全く分からないまま、現場配属になりました。図面を見た時の感想は「はて、これは一体」と思うことばかりでした。機械設計と一口にいっても、本当にいろいろなのだなとその当時思いました。
私は、切削加工で作る試作品を担当し、量産準備や量産フェーズの射出成形品の設計はもっぱら先輩方の担当でした。試作品から量産向けの形状に直す設計をお手伝いしながら、射出成形品の部品設計のことを、なんとなく覚えていきました。
その職場には数年ほどいましたが、射出成形の現場を一度も見ずにそこを去ることになりました。大きな会社でしたので、部品加工サイドの方々とやり取りするのは生産技術の人たちや先輩たちでした。
そんな感じでしたので、成形品の設計をできるようになったのかと言えば、「ピンカドは成形できません」「抜き勾配を入れなさい」「薄肉部分が広すぎるとひけてしまうからリブを入れなさい」「ゲートやPLを取る位置に気を付けなさい」といった基本のルールを覚えて、単品の簡単な形状の部品の設計がなんとか自力でできるようになった程度だったと思います。もちろん先輩方には、図を描いてもらい口で説明をしてもらいと覚えたのですが、とうとう金型や射出成形工程がぴんとくることなく、どうしてそういう形にするのかはなんとなくしか理解できないまま、ここでのお仕事は終わりました。
射出成形のことがもう少し理解できるようになったのはもう少し先のことで、実は、編集記者になってからでした。町工場の取材をしたり、射出成形シミュレーションのソフトウェアのことをお伝えしたり機会ができてからだと思います。
また、取材を通じて、ソフトウェアの設計しか経験がない方、全く異業種からの転職から、射出成形品の設計や、成形の実務をばりばりこなしている方にたくさん会ってきました。そういう方に共通していたのは、射出成形をする現場で働いていた、もしくは直接の接点があったこと、3D CADやシミュレーションを使いこなしていたことです。
私自身の過去においても、最初にお勤めした製造業が町工場だったので、すぐそばでマシニングやワイヤーカットが動いていました。事務担当の人がワイヤーカットを手伝っていました。職人さんがたまに流血騒ぎを起こしていました。そこでの設計は2D CADだったものの、加工の現場がすぐ傍にあったことは、私の設計の理解を早めてくれていたことは間違いないと思います。
その後、メーカーでは3D CADに助けられて、単純な射出成形品なら、なんとか設計ができるようになっています。しかし、加工の現場が見られていたら、もう少しマシな設計ができるようになっていたのではと思うことがあります。「なんか私には設計者は向いてない」と思って転職しているので、こうして編集記者になってしまうことも、もしかして、なかったかもしれません。
私自身の過去を振り返っても、そして取材でお会いしてきたたくさんの方を見ていても、デジタルがものづくりのスキル習得を助けてくれることは確かです。しかし、デジタルだけでも不十分なのだと思います。現場で、実際に目で見て手を動かすことに合わせ、デジタルを使って理解していくことが、スキル習得を早めることになるのだろうと私は思います。
余裕がない時代だからこそ、デジタルの力を借りる

私が設計者として働いた2000年前後は、現場の先輩方が、私のような明らかにスキルがおぼつかない若手に、結構、しっかり丁寧に指導してくれていたように思い、本当に感謝しかありません。国内の製造業が、今よりはわりとイケイケでよかった時代なので、今よりは現場に心の余裕があったのかな、とよく思います。当時だって結構忙しかったのです。残業がない日がほぼなく、量産出図の前は、お休み返上の泊りがけで製図したりしましたから。時間の余裕というよりは、心の余裕なのかなと思います。
今は、取材をしていても、とにかく、設計現場の余裕のなさをよく感じます。それだからこそ、今はなおさら、デジタルの力が生きてくるのかなと思っています。
昔は、「3D CADなんて使ってたら、まともな設計ができるようにならない」と言っている人が良くいました。でも、そんなことはありませんよね? 今、生成AIのブームで、似たようなことを言う人がよくいると思います。こうした便利なデジタル技術は、現場のことを理解しやすくして、生産性がなく手間でしかない作業を減らすことができます。そうしたことで、新人さんをはやく即戦力化することにつながると思います。
3D CADにしても、生成AIにしても、人がそうしたデジタルツールを使い倒すのではなく、逆に使われてしまうことがなければいいことなのではないでしょうか。
