
おりも みか 新卒入社した玩具製造メーカーにて品質・生産技術担当として日本国内・中国工場での新規ライン立ち上げを経験。玩具、アミューズメント機器、医療機器、健康雑貨など主にプラスチック製品の開発・製造に携わる。結婚を機に退職し、現在は育児の傍ら製造業ライターとして活動中。
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バイオプラドタバタ劇場【柔らかい樹脂編1】:メーカー生産技術だったママのよもやま話
2026年06月03日
コラム

製造業ライターのおりも みかです。以前はプラスチック製玩具メーカーで生産技術・品質を担当していました。「メーカー生産技術だったママのよもやま話」では、主にプラスチック製品の開発時におけるドタバタエピソードや、子育てをしながら日々接するプラスチック製品に関するあれこれをお届けしています。バイオマスプラスチックについてのドタバタな製品開発・生産の裏側をこっそりご紹介いたします。
バイオマスプラスチックはPP系が多い?
バイオマスプラスチック製品は、市場でもよく見かけるようになりました。特に今はナフサ不足ということで、石油由来成分を減らすことができるバイオマスプラスチックへの注目はより高まっていると感じます。
個人的な感想ですが、市場で見かけるバイオマスプラスチックはPP(ポリプロピレン)系が多いと感じます。そもそも雑貨や日用品に使用される樹脂ではPPが圧倒的に多いので、バイオマスプラスチックでもPPが多いのは納得です。PPは硬く、強度があり、耐薬品性にも優れているので水回りなどでも使いやすいのですね。
耐薬品性があるということは、つまり塗装に向かないということです。そのため玩具では塗装しない部位や製品に使用されることが多いです。赤ちゃん用玩具は基本的に塗装しないので、赤ちゃん用玩具にもPPはよく使用されます。
ただ、PPは硬く、粘りがないため、負荷をかけるとパキンと割れて先端が尖り、シャープポイントやシャープエッジになります。おうちで使用していた衣装ケースなどをうっかり踏み抜いて破損してしまったときは注意してください(私はよくやってしまうのですが……世の中の方はそうでもないのでしょうか……)。

安全性基準では「危険な個所・危険な小部品」が発生しないことが重要
玩具では、PP製品は設計時にそもそも破損しないように厚みを増したり、破損しそうな箇所に肉を持ったりリブを立てたりして対策します。硬い樹脂は曲げ強度よりも耐衝撃性に劣り、落下試験で破断する可能性があります。一方で、例えばPEなどの粘りのある材料では、落下試験で破断することはほとんどありません。曲げ試験ではパキンと折れる前に曲がります。それでも負荷をかけ続けると破断しますが、安全性基準値の強度負荷をかけ、曲がったまま維持されるか破断するかは、硬さを調整することで対策できることもあります。曲がるだけで破断せず、シャープエッジやシャープポイント、小部品が発生しなければ、どれだけ変形しても安全性には影響しないというわけです。
バイオマスプラスチックを使用したある赤ちゃん用玩具では、主にPPを使用していました。ですが一部製品は触感を変えたいという要望がありました。赤ちゃんは指先の感覚が過敏で、いろいろなものを触ることで脳が発達します。PPのツルっとした感触だけでなく、滑らかで柔らかい感触があることでより脳に刺激がいく……ということのようです。歯が生え始めの赤ちゃんはなんでも口に入れるので、生えたばかりの歯に硬いものがガチガチ当たるよりは、柔らかいものをはぐはぐしてくれる方が親としても安心できます。というわけで、バイオマスプラスチックにPP以外の材料を混ぜ込む検証の始まりです。
ベストな配合率を探る
私が使用していたバイオマスプラスチックは、そもそもペレットの状態ですでにPPと混錬されています。そこに別途他の樹脂を足して混ぜ、成形するのです。石油系のバージンPPが多くなればバイオマス材料の比率が下がり、成形性が良くなります。私が担当していた製品ではバイオマス系材料を半分以上使用しなくてはいけないという製品仕様だったため、バイオマス系材料が51%になるように調整していました。
今回はバイオマスプラスチック+PPに別の柔らかい樹脂を足して、異なる感触の成形品を作るのが目的です。混ぜる樹脂はエラストマーという、ゴムのように弾性を持つプラスチック材料です。PPと混ぜて射出成形するため、TPE(「Thermoplastic Elastomer」熱可塑性エラストマー)を使うことになりました。重要なのはその配合比率です。製品のバリエーションを考えれば、なるべく柔らかい方が良いのですが、あまり柔らかすぎても曲げ試験で破断してしまう可能性が高まります。

顧客の要求仕様は、触った印象は柔らかくても、片側を持って変形するほど柔らかいのはNGとのことでした。まずは配合比率を変えたサンプルを3種ほど用意します。最もTPE比率の高いものは、かなりグニグニとしていて、柔らかすぎてNGが出ました。一方で最もPP比率が高いものは、PP49%とあまり差がないためNG。
真ん中くらいの比率で、再度配合率を変更したサンプルを数種類用意しました。触った感触、強度試験、落下試験、成形性などを考慮しながらどの配合比率にするか決めていく作業になります。
品質担当の私としては、安全面を考えると、一番には「壊れにくいもの」を推したいです。そうなるとPP比率が高い方が、やはり強度的には高いことが分かりました。でもそれではやはり硬すぎる。もっと柔らかい方がいい。強度は設計で対策して。いやいやあまり設計変更すると今度はデザイン性が落ちる。というやり取りを経ること、エンドレス。
結果的にはかなり固めではありますが、TPE由来のグリップ性があるような感触の玩具が完成しました。個人的にはTPEが入っているバイオマスプラスチックは、PPのみに比べバイオマス材料由来の香りがより長く残る印象があってお気に入りです。
安全性とデザイン性の両立は本当に答えのない難しい問題です。柔らかさについては顧客側とずいぶん交渉しました。これが後の新製品のフラグになるとは……その時の私はまだ知らなかったのです。
(続く)
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