
高原忠良(たかはら・ただよし)
2020 年にTech―T設立。
「現地現物」の精神で部品分解調査や、中国・東南アジア現地取材をもとに、⾃動⾞産業の将来動向まで多領域で情報発信中。
プラスチックや樹脂部品生産や材料の生産・開発に携わる自動車用途プラスチックの第一人者。
1980 年、山形大学理学部卒。2008 年、山形大学理工学研究科卒(工学博士)。
1980~1989 年、新日本無線(現:日清紡マイクロデバイス)。
1989~2012 年、トヨタ自動車。
2012~2018 年、サムスンSDIなどグローバル企業で勤務。
2017-2025年、埼玉工業大学 客員教授など産学両分野で活躍。
セミナー・メーカー支援・中国視察ツアー・日経クロステックへの寄稿など幅広く活躍中。ホームページでも各種調査情報を元に、記事や動画を多数掲載
https://www.tech-t.jp/
これは困った! 日本の自動車生産、このままだと減ってしまいます:ティータイム
2026年09月16日
コラム

本コラム「ティータイム」では、「自動車×プラスチック×脱炭素」を中核に活動するコンサルティング企業・Tech-T の高原忠良が、自動車関連の技術やビジネスの話題をお届けします。
自動車まわりの材料や部品を扱う会社さんにとって、「電動化」は避けて通れない大きな波ですよね。取り扱っている製品によっては死活問題、という声もよく耳にします。 でも実は、電動化だろうが従来のエンジン車だろうが、それ以前に「そもそもクルマが売れなくなる」というもっと恐ろしい話が進行中です。日本目線だけでなく、世界目線で一度冷静に現状を眺めて、荒波への備えと、その先のブルーオーシャンを一緒に探ってみましょう。
トヨタ「モデルチェンジ9年」報道にドキッ
2025年11月16日の日本経済新聞、一面トップにかなり衝撃的な見出しが載りました。「トヨタが新車価値を長期化 投入サイクル9年に延長、ソフト開発重点」というものです。
これまで7年サイクルだった新車のモデルチェンジを9年に延ばし、その分は機能向上やサブスクリプションで稼ぐという内容。単純計算でも、買い替え周期が7年から9年になれば新車販売台数は約22%減ります。新車販売頼みのサプライヤーにとっては、まさに死活問題です。
トヨタは「モノ売り」からとっくに脱却モード
実はトヨタ、これは唐突な話ではありません。ロボタクシーやe-Paletteによる移動サービス、クルマをシェアする「TOYOTA SHARE」、長く使い続けるためのサブスク「KINTO」など、着々と布石を打ってきました。2025年5月の決算説明会でも、新車販売収益よりバリューチェーン収益(整備・保険・金融・コネクテッドサービスなど)を伸ばす方針が語られています。世界に1.5億台あるトヨタ車から継続的に稼ぐ、という発想ですね。「新車をたくさん作って売る」時代の終わりを、当のトヨタ自身が予告しているようなものです。
ブルーオーシャンはどこにある?
図表を見てください。2025年の新車販売台数は世界で約9170万台。うち中国だけで約3割を占めています。EUが1割強、日本は5%にも届きません。しかもBEV比率を見ると、グローバルで16%超と、いわゆる「キャズム」を突破。イノベーター・アーリーアダプターだけでなく、アーリーマジョリティ以降の一般層にまで広がり始めている段階です。

【写真】2025年新車販売 主要国・地域別パワートレインシェア(グローバル/中国/EU/日本)
あえて言い切ってしまうと、ブルーオーシャンは中国、それもBEVで急拡大している中国発のクルマづくりです。中国国内はもちろん、中国メーカーが攻め込む東南アジアや南米、さらには欧州まで含めた市場と捉えるべきでしょう。
現地で見た「中国発」のリアル
筆者は2026年7月、実際に中国の自動車産業を視察してきました。街角では、一汽トヨタのBEV「bZ3」を見かけました。中国人チーフエンジニアが開発を主導した1台で、トヨタもすでに現地化を本格的に進めていることがよくわかります。

【写真】中国自動車産業視察の際に街角で見かけた一汽トヨタのBEV「bZ5」(2026年7月)
さらにHuawei「HIMA」ブランドのLUXEED「V9」(智界汽車、2026年5月発売)や、尚界「Z7 ultra」(上海汽車、2026年4月発売)も現地でじっくり観察しました。ITジャイアントと自動車メーカーがタッグを組み、猛烈なスピードで新型車を送り出す様子は、日本にいるだけではなかなか実感できません。

【写真】最新のBEVを現地で調査する筆者(2026年7月)/HIMA LUXEED「V9」、HIMA 尚界「Z7 ultra」
日産も動いています。合弁の東風日産が開発したBEV「N7」は、ダッシュボード周りに2枚の大型ディスプレイを備えるなど、いかにも中国流のデザイン。日本車らしさよりも現地のトレンドを優先した、完全にローカライズされた1台でした。日産はこのN7を中国からの輸出にも活用する方針を表明しています。

【写真】日産が現地合弁の東風日産で開発したBEV「N7」(中国EVで一般的な2ディスプレイ/スイッチレスの内装)
材料・部品サプライヤーへの影響は?
新車の台数が減るということは、使われる材料・部品の総量も縮小方向に向かうということです。加えて、中国発のBEVはコスト競争が激烈なぶん、内外装の樹脂部品や加飾技術にも独自の進化が求められています。従来の「日本国内向け」の発想だけでビジネスを組み立てていると、市場そのものが縮んでいくリスクを負うことになりかねません。逆に言えば、中国発のクルマづくりに食い込めるかどうかが、これからの明暗を分けるポイントとも言えそうです。
まとめ:早めに現実を直視しましょう
トヨタのモデルチェンジ長期化も、ブルーオーシャンとしての中国シフトも、突き詰めれば「日本国内の生産台数は減っていく」という同じ結論に行き着きます。厳しい話ではありますが、早く現実を見つめるほど、打てる手は増えるはず。日系サプライヤーの皆さんには、ぜひ前向きに次の一手を練っていただきたいと思います。
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