小林 由美(こばやし・ゆみ)
ライター、編集者。町工場でのトレースや設計補助、メーカーでの設計製造現場での実務を経験。後、大手メディアの編集記者として約12年間、技術解説記事の企画や執筆の他、広告企画および制作、イベント企画など、幅広く携わる。2020年5月に個人事業 facetとして独立。
電動化の新製品を生み出す技術と連携の大切さ――高機能樹脂に寄せる期待【後編】
2026年09月09日

トヨタ自動車で電子部品やハイブリッド車、電気自動車のユニット開発に長年携わってきた草深浩伸氏。現在は大豊工業株式会社の執行役員 技術本部 本部長として、同社の技術部門を統括し、次世代に向けた新領域の開拓を進めています。

前編では草深氏に、トヨタ時代のお話を中心に、電動化の初期における開発プロセスと、大豊工業へ赴任した背景についてお伺いしました。
後編では、大豊工業が現在進めている新領域の製品開発や新たな組織づくり、そしてSPS樹脂をはじめとする機能性樹脂材料に対する期待についてもお伺いしています。
今回は、当時、トヨタ時代の草深さんのもとに担当者として現地に通っていた、出光興産 森川さんと一緒にお話を聞いています。

森川さん 「草深さんとは、最近、展示会で再会しました」
マルチパスウェイ時代の技術開発はどうあるべきか
今後の自動車業界の動向について、草深氏はエンジン搭載車と電動車が並行して発展する「マルチパスウェイ」の状況が続くと見込んでいる。
「エンジン車がなくなることは当面はないでしょうが、今まで通りの勢いで行くことはないと考えています。そのため、既存技術でもしっかりと貢献していくことと、新規事業を確立していくことの両輪で進めていく方針です」

大豊工業における売上実績:2028年度以降は新領域を伸ばす(出所:大豊工業)
大豊工業は、既存のエンジン部品で培ったコア技術を応用し、電動化市場に向けた新製品の開発を進めている。例えば、異種金属を接合する技術を活用した電池用クラッド材負極端子や、精密なダイカスト技術を用いたパワー半導体冷却器(ヒートシンク)の開発である。

大豊工業のアルミダイカストフィンに関する技術:従来のアルミダイカスト技術や電動車用筐体部品の製造技術を応用し、PCU内のパワー半導体モジュールを直接冷却する精密ダイカストピンフィンを開発(出所:大豊工業)
さらに、自動車部品以外の領域として、自社のめっき工程における排水処理の課題から生まれた次世代型排水処理システム「アクアブレイナ」の事業化も推進し、水資源を循環させる環境ソリューションの提供にも取り組んでいる。
これらの新領域における開発を迅速に進めるため、大豊工業は2025年3月、篠原工場内にスタートアップ型の実証工房「篠原BASE」を開設した。営業、調達、開発、生産技術、評価といった多様な部門のメンバーを集め、若手従業員を中心に構成されたチームが設計から評価までを一貫して行う体制をとっている。

篠原BASEは笹原工場の一角(矢印の示す場所)にある(出所:大豊工業)
「同じ環境にいると、どうしても過去の考え方に引っ張られてしまうことがあります。環境を変え、部門間の壁を取り払った組織にすることで、素早く判断し、素早く開発を進めていくという狙いがあります」(草深氏)
SPSなど高機能樹脂が力になれることは?
今後の電動化システムにおいて、樹脂材料が果たす役割について草深氏は期待を寄せている。
自動車の軽量化は継続的な課題であり、アルミニウムや鉄などの金属製部品をエンジニアリングプラスチックなどの樹脂に置き換えることができれば、利点は大きい。一方で、単に樹脂化するだけでは技術的な課題が残る。
「『軽くしたい』ということは最も重要な要求です。アルミケースでやれていることを樹脂でやれるなら、当然軽くなるので、うれしいことです。また形状が自由に設計できることも樹脂化のメリットです。ただ、水冷システムなどに用いる際の接合部のシール性や、電子部品のノイズを防ぐ電磁シールド性などが課題になります。そこを補う材料や加工の具体的な提案があると、新しい製品のヒントになります」(草深氏)
会社の枠組みを越えて連携し、情報を共有しながら開発を進めることが、今後の自動車産業において重要になると草深氏は述べている。それぞれの高い専門性を持つ各企業が、システム全体で連携することで、電動化社会における新たな製品の創出につながっていくだろう。
インタビューを終えて

草深さん「ハードルの高い課題を乗り越えるためには企業間の連携が必要です。日本の自動車産業のためにオールジャパンで勝たなければならないと思っています」
森川さん「オールジャパンのモノづくりを広めて、世の中のためになることをやっていきたいです。材料メーカーとしても、素材を提供することに留まらない、CAEやアセンブリなどを含めた総合的提案の必要性を改めて実感しました」
プロフィール
