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車載部品を軽量化・小型化することの難しさ:自動車業界よもやま話

2025年02月05日

コラム




⁠コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。 
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前回の記事では、自動車の電動化による重量増加によって環境や車両運動性能への影響が生じることについてお話しました。これらの課題を解消するために、車載部品の軽量化や小型化が進められています。筆者の身の回りでも、「難しい」と悩んでいる声がよく聞こえてきます。 

これはさすがに小型化しすぎですが……(写真:編集担当)


車載部品を軽量化・小型化する目的とメリット 

 
自動車産業全体が取り組むテーマの1つが、二酸化炭素排出量抑制です。二酸化炭素排出量を減らすために有効なのが車載部品の軽量化です。車載部品を軽量化できれば、燃費や電費の改善につながります。また、車載部品を軽量化することで、タイヤやブレーキパッドの摩耗などの環境面や運動性能への影響を抑えることが可能です。これらは、電動車以外の車両にも同様の効果が期待できます。

部品の小型化によるメリットは、部品の搭載に必要なスペースを狭くできることです。その結果、車体の大きさを変えずに居住スペースやトランクのスペースを広げることが可能です。また、部品の小型化が進めば周囲の部品との干渉が起きにくくなり、搭載検討の効率化やメンテナンス性向上も期待できます。 

車載部品の小型化や軽量化を進めることで、環境面だけではなく車両の性能や快適性という面でも大きなメリットがあります。軽量化や小型化は簡単ではありませんが、各車両メーカー・部品サプライヤーは、部品の軽量化・小型化に積極的に取り組んでいます。 

車載部品の軽量化・小型化することの難しさ 

ここでは、車載部品の軽量化・小型化実現の難しさについて、具体的な事例を紹介します。 

■材料変更・肉抜きを行う際の性能確認 

部品の軽量化を実現する効果的な選択肢の1つに、使用している材料の変更や部品の肉抜きなどが挙げられます。一般的には、顧客からの要求性能や社内で設定された規格値・目標値を満たせば、設計変更のプロセスを通過することは可能です。しかし、自動車のようにさまざまな環境で幅広い使われ方をする製品の場合には、その全てを要求性能や試験に落とし込めていない場合があります。材料変更や肉抜きによる軽量化は影響の大きい設計変更となるため、実際の使われ方を想定した性能確認が必要不可欠です。 

■性能・モノづくりの観点で単純な縮小はできない 

部品を小型化する場合、全体の寸法を0.9倍するようなことができればシンプルです。しかし、実際にはそう簡単ではありません。例えば、性能に影響する部品寸法で物理法則によって設定されているものは、性能要求が変わらなければ寸法を変更できません。また、製品を縮小することで、構成部品に求められる寸法精度や表面粗さなどにも影響が生じます。このように性能やモノづくりの観点で変更できない要素があるため、変更できる箇所のみを調整することで製品の小型化を実現する必要があります。 

■社内にある専門知識では対応できない 

部品の小型化・軽量化を実現するためには、社内にない専門知識が必要になる場合があります。例えば、金属材料で構成された製品の軽量化で樹脂材料を採用する場合、樹脂に関する専門知識が必要です。また、部品の設計変更により新たな工法の開発が必要になります。開発期間短縮が求められる中で、自社の強みを生かしつつ自社にない専門知識をどのように補っていくかが大きな課題となります。 

部品の軽量化や小型化の取り組みは幅広い企業で行われています。しかし、今回紹介したように大きな課題を抱えているため、いかにこのような課題を解消していくかが重要です。 

⁠次回は、車載部品の軽量化や小型化に活用できる技術や考え方について紹介します。

プロフィール



⁠⁠一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
⁠>>執筆者サイト

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