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クルマを電動化すると重くなる:自動車業界よもやま話

2025年01月22日

コラム




自動車部品メーカーでCASE関連の製品開発を担当するエンジニアとして働きながら、製造業に関するライター活動をしている一之瀬 隼です。コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。よろしくお願いします。

自動車における電動化の流れと課題

二酸化炭素排出量抑制を1つの主な目的として、世界中で自動車の電動化が進められています。地球温暖化などの環境面以外にも、電動化に関わる産業の育成・活性化や国際的な競争力強化も電動化を推進する目的の1つです。このような背景から、多くの国や地域で自動車の電動化に関する販売目標が制定されています。

例えば、英国では2035年販売目標としてEV(※1)およびFCV(※2)で100%、米国では2030年販売目標としてEV・PHV(※3)・FCVで50%を掲げています。日本では、2035年の販売目標として電動車(EV/PHV/FCV/HEV、※4)で100%の達成が目標です。しかし、これらの目標実現を実現するためには、さまざまな課題を解消しなければなりません。

電動車の代表格であるEVでは、主に液系リチウムイオン電池が用いられています。しかし、ICE(※5)のエンジンと燃料タンクに比べて、「EVのバッテリーやモーターなどは高額であること」。「エネルギー密度不足や経年劣化による容量・出力の低下、発煙や発火、充電時間が長いこと」などが、課題として知られています。

また「EVは重い」という情報を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか? EVは十分な航続距離を稼ぐため大容量バッテリーを搭載しなければならないため、ICEと比較すると車両重量が重くなります。それで生じるさまざまな影響への対処も電動化による課題の1つです。

EVとICEの重量比較

それでは、電動化によってどれくらい重量が増加するのか、EVとICEの重量を実際に比較してみましょう。

同じ車格における車両重量を比較してみると、EVの方が重いことが分かります。例えば、トヨタ自動車のEVである「bZ4X」は、同社の「ハリアー」や「RAV4」と同等の車格に分類されます。異なる車両のため、純粋にICEをEV化することによる重量の増加量を算出できません。しかし、規模感を把握できるように、公式に公開されている情報を元にできるだけ条件を合わせて算出します。

各車両の主要諸元表によると細かな装備による違いはありますが、同じ2WD車両のGグレードで比較した場合、車両重量はbZ4Xが1900kg、ハリアーが1570kg、RAV4が1590kgです。EVであるbZ4Xは、ICEであるハリアーやRAV4よりも300kg程度重いことが分かります。

次に、直接的に重量を比較する情報ではありませんが、燃料満タン時および一充電走行距離(満充電の状態から連続走行可能な距離)について考えてみます。

ハリアーの燃料タンク容量は55 l 、2WD車両のWLTCモードの燃費は15.4km/lなので、計算上は燃料満タン時に847km走行可能です。一方で、bZ4Xの一充電走行距離は567kmです。ハリアーの燃料満タン時と同等の距離を一充電走行できるようにしようとすると、計算上はbZ4Xのバッテリー容量を約1.49倍にする必要があります。bZ4Xの場合には、71.4kWhのバッテリーが搭載されていますので、1.49倍だと約106.4kWhの容量が必要です。仮にリチウムイオン電池の重量エネルギー密度を250Wh/kg(※6)とすると、増加分の35kWh分のバッテリー重量増は約140kgです。

このように走行可能距離で比較してみると、EVがICE同等に走行するためには、販売されている状態よりも重量を増加させる必要があることが分かります。

「EVは重い」と表現されることは多くあります。しかし全体の傾向を意味しているのか、同車格での比較結果を意味しているのかなど、意味合いについては注意が必要です。

次回の「自動車業界よもやま話」は、自動化による自動車の重量増加が引き起こすさまざまな影響についてです。

注記

⁠※1:電気自動車
⁠※2:燃料電池自動車
⁠※3:プラグインハイブリッド自動車
⁠※4:ハイブリッド自動車
⁠※5:内燃機関を搭載した自動車。本記事では、PHVやHEVなどはICEに含まない
⁠※6:経済産業省が発行した「自動車産業を取り巻く現状と電動化の推進について」に掲載されている電池技術進化に関する各国の目標内に記載されている2020年時点の目標値を参照。現在、実際に車載として用いられているリチウムイオン電池よりも大きな値と考えられる。


プロフィール



⁠⁠一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
⁠>>執筆者サイト

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