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国内外メーカーのOTAへの対応状況と今後のこと:自動車業界よもやま話

2025年05月13日

コラム

⁠コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。  

前回の記事ではOTAの概要や、自動車にOTA技術を適用することで実現できることを紹介しました。OTAに関しては海外が先行し、徐々に国内メーカーでも取り組みが拡大しつつあります。今回は、国内外の自動車メーカーによる取り組み状況を紹介します。

 

国内メーカーのOTA導入がいよいよ本格化

OTAの取り組みは海外メーカーが先行していましたが、国内企業でも少しずつ進展しています。既にOTAの一部機能に対応したコネクテッドカーが多く販売されており、さまざまな情報が無線通信でやり取りされています。

一方で、シンプルな情報の授受にとどまらず、ソフトウェアの無線アップデートや車載部品の制御指示といった高度なOTA機能については、現時点ではまだ広く普及していません。

例えば、マツダは2022年9月に発売した「CX-60」からOTAシステムを導入していますが、対応しているのはカーナビゲーションなど情報提供系のシステムに限られます。車両制御システムへのOTA適用については、2025年を目途に開発を進めています。

「MAZDA CX-60 XD SP」(出所:マツダ

日産も2025年を目標に、自動運転システムやヒューマン・マシン・インタフェース (HMI) へのOTA本格導入を予定しています。その他の国内メーカーでも、既に情報収集など一部機能にOTAを導入済みで、2025年以降は対象機能の拡大を図る方針です。

OTAを搭載した日産リーフ「e+ G」(出所:日産

国内メーカーがOTAの本格導入を2025年以降に設定している理由は主に2つあります。ひとつは、先行する海外メーカーの動向を注視しながら対応することで、大きなトラブルを回避するため。もうひとつは、サイバーセキュリティやソフトウェア更新に関する国連規則(UN-R155/156)への対応に時間を要しているためです。UN-R155/156については、別の記事で詳しく取り上げる予定です。

 

OTA導入が進む海外メーカーの課題

海外の中には、国内メーカー以上に積極的にOTAを導入している企業もあります。例えば、電気自動車で知られるテスラでは、先進運転支援システムの機能拡張や不具合修正を目的としたソフトウェアアップデートを既にOTAで実施しています。

テスラ「Model 3」(出所:テスラ

一方で、展示会でテスラ車をハッキングするコンテストが行われたり、ドイツのハッカーが遠隔操作に関する投稿をしたりと、セキュリティ面への懸念も浮上しました。こうした事例を踏まえ、国内メーカーも制御機能に対するOTA導入にあたっては、万全なセキュリティ体制の構築を優先していると考えられます。

OTAが進んでいるのはテスラだけではありません。中国系メーカーも積極的に取り組んでいます。公的資料は確認できていませんが、既に制御系の機能にもOTAを適用していると推測されます。

その根拠のひとつとして、2020年時点で中国の市場監督管理総局が「OTAによるリコール対象製品の修正に関する透明性・適正性についての通知」を出していることが挙げられます。

さらに2025年には、工業情報化省と国家市場監督管理総局がOTAの分類を細分化し、対象に応じた事前届出を義務づけるなど、定められた手順に沿ってOTAを実施する制度を導入予定です。分類の観点には、主要技術パラメータへの影響、自動運転機能の有無、リコール対応かどうかが含まれ、それぞれに応じて異なる手続きが定められています。こうした制度により、不正なOTAを防ぎつつ、利便性を活かすことが可能になります。

 

技術者が考える、OTAのメリットと注意点

技術者の立場から見ると、OTAに対応することでソフトウェアのリリースをハードウェアに合わせる必要がなくなり、開発期間を長く確保できるという利点があります。その期間を使ってロバスト性や信頼性を向上させ、さらに性能の向上も期待できます。

一方で、セキュリティリスクが高くなることや、不具合解消のためのOTA適用判断の難しさなど、注意すべき点も多くあります。最新のセキュリティ情報や法規制に常にアクセスし、継続的な学習が求められる分野です。

プロフィール



⁠⁠一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
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