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OTAは何ができるのか?:自動車業界よもやま話

2025年05月06日

コラム

⁠コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。  

自動車のコネクテッド化が進むにつれて、国内自動車メーカーにおいてもOTAの導入に向けた技術開発が進められています。そこで今回の記事では、OTAの概要やOTAで実現できる機能について紹介します。 

そもそもOTAとは何か? 

OTAとはOver The Airの略語であり、無線通信を介してデータの送受信を行う技術です。車両がOTAに対応することで、以下のような機能の実現が可能です。それぞれどのような機能なのか、簡単に確認しましょう。 

  • 車載ソフトウェアの更新 
  • 車両からのリアルタイムデータの収集 
  • 車載部品への駆動指示 

 

【車載ソフトウェアの更新】

「車載ソフトウェアの更新」とは、無線通信で車載ECUに搭載されたソフトウェアなどのアップデートを行うことです。スマートフォンのOSやアプリケーションのアップデートをイメージすると分かりやすいでしょう。 

従来はディーラーなどで専用の設備を有線接続し、車載ECUのソフトウェアをアップデートしていました。コネクテッドカーが普及する中で、有線接続ではなく無線通信でソフトウェアをアップデートする取り組みが進められています。OTA対応により、ソフトウェアのアップデートのたびにディーラーを訪れる必要がなくなります。

自動車メーカーとしても、速やかに最新のソフトウェアを車両に書き込むことができるようになるため、セキュリティ機能や最新機能の更新、不具合の修正などをスムーズに行えるでしょう。 

例えば、車載ソフトウェアにセキュリティ上の脆弱性が見つかった場合には、速やかな対策が必要です。しかし、ディーラーからの通知に対象車両のユーザーが気づかなければアップデートのためにディーラーを訪れることもなく、脆弱性が放置された状態で車両を使用し続けることになります。このような状況でも、OTAに対応していれば遠隔で脆弱性を解消するアップデートを適用できます。 

【車両からのリアルタイムデータの収集】

車両にはさまざまなセンサーが搭載され、各ECUは内部でセンサー情報や部品の駆動状況、機能の作動状況などを記録しています。OTA技術に対応することで、各ECUに記録された情報をリアルタイムに近い状態で収集することが可能です。 

開発者にとって、市場でさまざまな使われ方をする車両・部品のデータはとても貴重です。しかし、これまでは市場から回収された部品の情報やディーラー経由での限られたデータしか得られませんでした。信頼性の高い情報を多く収集するために多額の費用が必要となり、それが製品の価格に影響を及ぼすこともあるでしょう。 

OTAを用いれば、さまざまな車両を対象にリアルタイムに近いタイミングでの膨大なデータを、低コストで収集できるようになります。開発の参考にできるデータの多様性が増すことで、網羅的な状況を想定した製品開発が可能になり、ロバスト性や品質が高い製品の開発につながります。 

【車載部品への駆動指示】

自動車のドアや窓、エンジン、ステアリング、ブレーキなどを構成する部品の中には、外部からの指示で駆動できるものがあります。通常は外部から専用の機器を接続し、特定の指示を出すことで駆動させますが、OTAによって遠隔で指示を出せるようになります。 

例えば、複数台の車両に同じ駆動を指示する必要がある場合、これまでは「1台ずつコネクターを車両に接続し特定の指示を出す」ということを繰り返し行う必要がありました。

しかし、OTAで遠隔指示が出せるようになれば1台ずつコネクターを接続する手間が不要になり、効率的に作業を行うことが可能です。また、故障などで接続するコネクターが使用できない場合でも、指示ができるようになるでしょう。 

自動車を保有するユーザーにとっての日常的なうれしさはあまりないかもしれませんが、特定のシーンにおいては利便性の高い機能です。  

このように、自動車へのOTAが実現することで、これまでは実現できなかったことができるようになり、時間がかかっていたことが効率よく行えるようになります。次の記事では、国内外の車両メーカーがOTAに対してどのように取り組んでいるか紹介します。 

プロフィール



⁠⁠一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
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