一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
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自動運転車が故障したら?――【その1】故障した場合のバックアップ機構
2025年03月25日
コラム
コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。
自動運転車の万が一の故障についても、当然のことながら、さまざまな対策が取られています。そういうわけで今回は、「自動運転車が故障したら?」というテーマで、自動運転システムの設計事情についてお話していきます。
昔ながらの故障した時のイメージはこれですけれども……。
自動運転機能の構成要素とバックアップ機構
自動運転を実現するためには、主に以下のような要素が必要です。
- 操舵系:ステアリングなど、車両の進行方向を決定する
- 駆動系:車両の加速・速度維持を行う
- 制動系:車両の減速・速度維持・停車保持を行う
- 認識系:外部の状況把握を行う
- 通信系:各部品・機能間で必要な情報のやり取りを担う
- 電源系:上記の機能を実現するための電源供給を行う
部品単位で考えるとさらに細かく分類できますが、大まかにはこのような機能で構成されると考えていいでしょう。これらの要素のいずれかが正常に作動できない状態になると、自動運転機能を正常に利用し続けることはできません。
自動運転レベル4以上の車両を開発する際には、一部の部品が故障した場合でも自動運転車が安全な状態になるまで自動運転システムが対応できるように冗長(バックアップ)設計などを行う必要があります。
今回は、自動運転の中でも安全性の確保に重要なバックアップの役割を担う、制動系と認識系について確認します。
制動系
走行している自動車を減速させるためには、ブレーキ(制動)をかける必要があります。乗用車の場合には4輪にそれぞれブレーキキャリパがついていますので、そのうちの1つが故障したとしても、残りの3輪でブレーキをかけられます(左右差が生じるため、真っすぐに止まれない可能性はあります)。一方で、ブレーキキャリパに圧力をかける加圧系部品が故障すると、4輪全てに圧力がかけられなくなってしまいます。そのため自動運転車の場合には加圧機能があるブレーキ部品を2つ以上搭載し冗長構成にするのが一般的です。冗長部品でどの程度の機能まで実現するか(例えば長時間駆動できるのか、1回だけの緊急ブレーキとするか)は、カーメーカーによって異なるでしょう。
ちなみに、回生ブレーキが可能なEVやHVなどの場合には回生ブレーキがバックアップになると考える人もいるかもしれません。回生ブレーキは満充電時には回生ブレーキをかけられないので、バックアップ時の制動を想定して常に満充電にならないようにコントロールしていれば、回生ブレーキをバックアップとして考えることも可能です。
また、坂道などで停車状態を保持するためには電動パーキングブレーキが使用されます。1つの故障で左右両方が駆動できなくならないような冗長構成を組むか、シフトをP(パーキング)に入れることで車両保持します。近年は、EVを中心にメカ的なシフトPロックが廃止される動きもあるため、その場合には電動パーキングだけで停車保持を完結する必要があります。
認識系
自動運転を実現するためには、自車の周囲の状況を正確に認識する必要があります。そこで、自動運転車にはカメラやLiDAR(ライダー)、ミリ波レーダー、超音波センサなどが複数搭載されています。特に車両付近は同じ個所を複数のセンサで検出することで、安全な自動運転が可能です。
いずれかの部品が壊れたとしても、すぐに安全性が損なわれるわけではありませんが、安全性を確保するために必要な外部認識精度が低下してしまいます。カーメーカーの考え方次第になりますが、自動運転中の場合には速やかに安全な状態を確保できる路肩などに停車し、自動運転機能を停止する場合があります。また、自動運転の上限車速を低減し車間距離を十分に保った上で制御を継続することも考えられるでしょう。
高い自動運転レベルを実現するためには、バックアップ時にいかに安全な状態を確保し続けられるかが重要な要素の一つです。自動運転レベル4の実証実験というニュースを見ても、故障時のバックアップ機構やオペレーションに関する情報はあまり出てこない印象です。技術や安全性をアピールするためにも、こういう情報も広く公開してほしいと感じます。
「自動運転車が故障したら?」編は、次回へ続きます。
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