一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
>>執筆者サイト
広州市でロボタクシーに乗ってみた:自動車業界よもやま話
2025年04月22日
コラム
コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。
以前、中国へ行った際に、広東省広州市で運営されているロボタクシーを試乗したことがありました。今回は、その時のことをお話しします。
ロボタクシーとは?
試乗したロボタクシー
試乗したロボタクシーは国有自動車大手の広州汽車集団が扱っている車両です。2024年末にNASDAQに上場した小馬智行(ポニー・エーアイ)の自動運転システムが搭載されています。
今回は、広州汽車が自社の技術や開発車両を展示している「広汽科技館」を起点に、15分程度のロボタクシーの試乗が行われていました。
今回利用したロボタクシーには、故障時などに対応するセキュリティドライバーは同乗していません。ルートは選択肢の中から決めるため、限られた環境下で自動運転システムがすべての動的タスクを担う自動運転レベル4の車両を用いたタクシーサービスです。
車両のボンネットを開けての確認などはできなかったため、市販されている車両からどの程度の改造が施されているかは分かりませんでした。実際の車両を見た限りは、市販車両に対してカメラやLiDARなどの外部認識用センサーの追加と、自動運転関連の判断・指示を行う自動運転システムを更新した車両ではないかと考えています。
ロボでも車間距離は近かった
車内の様子
中国語がしゃべれる知人が同乗しなかったため、乗車後は言葉が分からず不安でした。でも、実際に試乗して車両が動き出す頃には不安感はだいぶ和らいでいました。
不安感が和らいだ理由は、外部認識精度が高いことを実感できたからです。運転席と助手席の後ろにそれぞれモニターが設置されており、車両が外部をどのように認識されているかリアルタイムで状況が表示されています。
この時は、小雨で見通しがそれほどよくない状況でしたが、周囲の自動車、トラック、二輪車、台車付き二輪車、歩行者など、かなり高い精度で遠くまで認識されていることが分かるため、不安なく試乗できました。
車両が動き出してからは、「中国のタクシー」というような感覚です。今回試乗した道路は片側4車線の大きな道路であり、交通量も多く途中で路肩の工事を行っている箇所があるなど、自動運転においては簡単な状況ではありませんでした。
日本で運転している感覚よりも車間距離は短く、車線変更も急な割り込みと感じるタイミングで行われていました。これは、ロボタクシーだからということではなく、現地で通常のタクシーに乗った際も同じなので、特に違和感はありませんでした。
走行している車線で工事をしていたため隣の車線に車線変更を行った際には、後続車が来ているタイミングだったため、クラクションを鳴らされてしまいました。クラクションを鳴らしたドライバーは自動運転であることに気づいていなかったと思いますが、ドライバー席に誰も座っていない自動運転車がクラクションを鳴らされているというのは、面白い状況でした。
「中国のタクシー」と書きましたが、乗り心地が悪いわけではありません。多少車間距離が近いことを除けばそれほど気になることはありませんでした。
フェールオペレーションはどうなっている?
今回の試乗では特に大きな不安も感じませんでしたし、利用料金もそれほど高くないようなので、今後もサービスは広がっていくのではないかと感じます(支払いは現地にいる知人が済ませてくれたため、具体的な金額は把握できていません)。
一方で、自動車部品サプライヤーのエンジニアとして気になったのは、自動運転に影響を与える部品が故障した場合などの処置です。実際の道路での走行を許可されているため、ある程度の冗長性は組まれていると考えられます。しかし、今回の試乗からは、そこまでよく分かりませんでしたので、今後調査できる機会が持てるといいなと考えています。
今回は広州市で試乗しましたが、北京や上海など主要な都市では同様のロボタクシーが運用されているようです。貴重な機会となりますので、出張や旅行で現地を訪れる機会がある場合には、事前に試乗方法や支払い方法を確認した上で、利用してみてはどうでしょうか。
プロフィール