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日本大丈夫か……!? 国内外の自動運転の実証実験:自動車業界よもやま話

2025年02月26日

コラム




⁠コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。  
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今回は、日本だけでなく世界中で行われている自動運転の実証実験について、いくつか具体的な取り組みを紹介します。 
 

海外における自動運転の取り組み 

海外の取り組みとして、自動運転の開発が盛んなアメリカ、中国の取り組みを紹介します。 

アメリカ:waymoが自動運転開発をリード 

アメリカの自動運転開発をリードしているのは、米Alphabet傘下の自動運転車開発企業であるWaymoです。Waymoは365日24時間対応の自動運転サービスを、多数の都市で展開しています。例えば、フェニックスでは315平方マイル全域、他にもサンフランシスコやロサンゼルスの一部地域で利用できます。また、今後はオースティンやアトランタ、マイアミなどにも拡大される予定です。さらにWaymoは、日本国内での自動運転タクシーの試験を2025年から開始すると発表しています。 

GOとWaymo、日本交通が2025年より、東京における自動運転技術のテストに向けて協業(GOのプレスリリースより:2024年12月17日 ) 


⁠Waymoは、自社が開発している自動運転において、人間が運転するよりも「エアバッグ展開事故」「負傷者が生じる事故」などが明確に減少していることを示しています。世界最大の保険会社の1つであるスイスの保険会社は、人間が運転する自動車よりも自動運転車の方が安全であると結論付けているそうです。 

自動運転車が対象ではありませんが、日本の保険会社の多くも自動運転につながる技術である先進安全機能が搭載されている車両の保険料が減額されています。国内でも、スイスの保険会社と近しい判断をしているのではないでしょうか。 

中国:多くの企業がしのぎを削る 

Waymoが競合を大きくリードするアメリカとは異なり、中国では多くの自動車メーカーやサプライヤーが、それぞれの技術を競い合っている状況です。北京市や上海市、広州市などの主要都市を中心に、IT企業が集まっている深セン市、また重慶市や武漢市など10以上の都市で自動運転車のテストや実証実験が行われています。これらの都市では自動運転タクシーの運用が開始されており、私も実際に試乗してきましたので次回の記事で試乗した際の感想などを紹介したいと思います。 

私個人としては、民間主導の傾向が強いアメリカと国営の地場自動車メーカーが日欧米の自動車メーカーと提携して開発を進める中国の違いが、自動運転車の普及に関する取り組みにも表れているのではないかと感じました。自動運転車の開発に関しては、上記のアメリカと中国の両国が中心となって、進んでいくと考えています。 

中国、米国、イタリアに拠点を置く自動運転EVスタートアップ企業 であるPIX Movingの製品:ユニークなスケートボード型をしたEVシャシーと、無人運転ミニバス「RoboBus」(TISインテックグループのプレスリリースより:2022年7月11日) 

国内の取り組み 

日本国内でも、自動運転に関する開発は進められています。国内の場合には、自動車メーカーが独自に進めるものに加えて、地方での少子高齢化や労働力不足の深刻化といった課題を解消するために、産官学連携での取り組みが進められています。 

国内初の中型バスでのレベル4自動運転運航 

経済産業省と国土交通省が進める「デジタル田園都市国家構想総合戦略」における取り組みの1つとして、茨城県日立市で中型バスを用いたレベル4自動運転を進めています。2025年1月24日までに各種許認可を取得し、2025年2月3日から国内初となるレベル4自動運転を開始しました。国内のレベル4では最長となる6.1kmの運行となります。あらかじめ経路が決められた運行であり、自動運転を行う区間は磁気マーカーが設置されている専用道での運行です。 

レベル4自動運転で用いる国産中型バス(経済産業省のプレスリリースより:2025年1月24日) 

バスを用いた実証実験は、アメリカや中国で運用されている自動運転タクシーとはサービスの目的が異なるので、単純な比較はできません。特に国内の公共サービスの場合には、少しでも安全性への懸念が生じると機運が静まってしまいますので、利便性よりも安全性に振り切って実証実験を行っていると感じます。 

日本国内での自動運転タクシーの状況 

アメリカや中国で実用段階にある自動運転タクシーについて、国内では一般利用者が乗車できるようなサービスは提供されていません。当初、日本での自動運転サービスについては、ホンダがGMの子会社であるクルーズと共に、2026年からのサービス提供を予定していました。しかし、2024年末の時点で自動運転タクシーサービスを中止する方針であると報道されています。日本国内での自動運転タクシーサービスが提供されるタイミングは不透明であり、国内メーカーよりも海外で実績を積んだWaymoなどが先行するかもしれません。 

クルーズ、GM、Hondaで共同開発した自動運転専用車両「クルーズ・オリジン」(ホンダのプレスリリースより:2023年10月19日 ) 

このような状況だけを見ると、日本の自動車メーカーの自動運転開発技術を心配する方がいるかもしれません。しかし、私自身はそれほど心配していません。実際、中国で提供されている自動運転タクシーの中には、日本メーカーと中国地場メーカーの合弁会社が多く開発に携わっています。今後も、海外での実践の場を活用しながら、技術開発を進めていくでしょう。 

プロフィール



⁠⁠一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
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