一之瀬 隼(いちのせ・しゅん) 自動車部品メーカーの現役エンジニアとして、CASE関連の製品開発を担当。2020年春より、製造業関連のライターとして活動。
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いまさら聞けない!?「自動運転レベルとは」:自動車業界よもやま話
2025年02月19日
コラム

コラム「自動車業界よもやま話」では、自動車業界で働く人の視点から、自動車関連のさまざまな話題を取り上げていきます。
前回までは、自動車の電動化による重量増加や性能への影響、小型化や軽量化の技術などについてお話ししました。今回から、自動運転に関する話題を取り上げていきます。
自動運転の動向
自動車業界において主要な開発テーマの1つが、自動運転です。国内を含め世界中で自動運転の開発が進められています。交通事故の削減や深刻なドライバー不足の解消などの社会的意義が強いテーマです。しかし、実現するための技術的難易度が高く、法規制やインフラの整備も必要であり、官民一体での取り組みが求められています。
渋沢栄一記念ラッピング自動運転バス(2024年7月1日埼玉工業大学のプレスリリースより):埼玉工業大学が開発した自動運転機能を後付けで搭載した大型バス。
現在は、世界中で自動運転サービスの普及に向けた開発が進められています。米国や中国では、「自動運転タクシーサービス」の運用が開始されています。このサービスでは、緊急時の安全確保を担うセーフティドライバーが乗車しません。
筆者は自動運転車を実際に利用したことがありますが、その時もかなり不安でした。ただ、実際に乗車してみると、車両がどのように周囲の状況を認識しているのかが分かるので、徐々に不安はなくなりました。この時の体験については、今後公開予定のコラムで紹介します。
国内では、自動車メーカーやベンチャー企業が自治体・大学と協力し、自動運転レベル4に向けた技術開発や実証実験を実施しています。自動運転バスなどの実証実験には、市民が試乗できるものもあります。試乗することで、新たな気づきが生まれることもありますので、近くで参加できるものがないか、探してみるといいでしょう。
レベル別の自動運転の定義
自動運転の分類は、米国運輸省(NHTSA)が発表したSAE(Society of Automotive Engineers)の定義により、運転主体や技術到達度、走行可能エリア、自動車の動的運転タスク(DDT※)などによって、レベル0からレベル5までの6段階に分類されています。
SAE の言い回しが少々独特なので、以下は、国土交通省による定義を参考に表現しました。
- レベル0:運転自動化なし:従来のクルマのように運転者が全て運転する。
- レベル1:運転支援:アクセル・ブレーキ操作もしくはハンドル操作のどちらかが、部分的に自動化されている。
- レベル2:部分運転自動化:運転支援:アクセル・ブレーキ操作もしくはハンドル操作の両方が、部分的に自動化されている。
- レベル3:条件付運転自動化:部分運転自動化:特定の走行環境条件を満たす領域においてのみ、自動運転システムが運転操作の全てを代替する。ただし、自動運転システムの作動中、自動運転システムが正常に作動しない恐れがある場合は、運転操作を促す警報が発せられるため、適切に応答しなければならない。
- レベル4:高度運転自動化:特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運転システムが運転操作の全部を代替する。(レベル3にあった但し書きが含まれない)
- レベル5:完全運転自動化:自動運転システムが運転操作の全てを代替する
※DDT=車両の運転に際しリアルタイムで行う必要がある全ての操作上および戦術上の機能。「運転タスク」とも表現される。
SAEの定義に基づく自動運転レベルの分類について詳しくは、公益社団法人自動車技術会(JSAE)が制定する日本自動車規格(JASO)が発行している「自動車用運転自動化システムのレベル分類及び定義」を参照してください。
開発しようとしている機能がどの自動運転レベルに分類されるのかは、開発現場によって意見が分かれることがあります。例えば、自動運転レベル3の機能を開発する際は、運転者がフォールバックの準備をできている必要があります(上記の箇条書き、レベル3の但し書き部が「フォールバック」です)。実際には自動運転中に運転者が体調を崩しフォールバックができない状況に陥る可能性があるでしょう。このような状況が想定できるため、筆者自身は自動運転システムがDDTのフォールバックを担うべきだと考えています。DDTのフォールバックをシステムが担い、さらに条件が限定されていない自動運転は完全運転自動化でありレベル5に分類されます。
システムが正常にDDTを継続できない状況に陥る確率と、そのタイミングで運転者がフォールバックできない状況に陥る確率の掛け合わせになるためかなり低い確率かもしれませんが、人の命に直結するため軽視することはできません。
世界各国で自動運転の開発が進められていますが、運転主体が自動運転システムとなる自動運転レベル3以上の普及は、2030年代以降とする考えが一般的です。上記のような考え方の違いに加え、法規制や事故が起きた際の責任などを解決するために、しばらく時間がかかると考えられています。
次回のコラムでは、国内・海外で行われている自動運転の取り組みについて紹介します。
参考資料
- 自動運転の実現に向けた動向について(国土交通省)
- 自動運転移動サービスを推進する国の取り組みと展望(経済産業省)
- 自動運転に関する基準作成をはじめとした国土交通省の取組について(国土交通省)
- 自動車用運転自動化システムレベル分類及び定義(自動車技術会)
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