中嶋嘉祐(なかしま よしひろ) フリーランス。理系学生向けの就職情報メディア『理系ナビ』の初代編集長。転職情報ポータル『キャリアインデックス転職』のWebプロデューサーを務めた後、独立。オウンドメディアの新規立ち上げ/運用請負、ライティング/編集、コンテンツマーケティング支援などを生業にしております。>>企業サイト
地域住民の足をどう維持するか? 自動運転バスへの期待と課題: SPSインサイト
2025年04月15日
コラム
「SPSインサイト」では、担当記者が企業の報道発表を読み解きながら、コラムをお届けします。読者の皆さんのビジネスに役立つひらめきにつながれば幸いです。
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私事になりますが、筆者は日産「セレナ」を愛車にしておりまして、一世代前のプロパイロット機能を搭載しています。
このクルマは自動運転レベル2に相当しまして、高速道路で同機能を起動すると、後は車にお任せで目的のインターチェンジ付近まで自動で運転してくれます。しかしハンドルから手を離せません(最新の「プロパイロット2.0」なら手放しできる)し、慣れるまできつめのカーブを走るときには「車線から外れて壁にぶつかるんじゃないか」という本能的な怖さがあったり、車線を示す白線が見えづらい区間では手動運転が必要になったりします。
プロパイロット2.0を搭載した『「セレナ」 e-POWER LUXION』(筆者が乗っているモデルではありません!) 出所:日産
それでも車間距離の調整(加速・減速)やハンドル操作が不要になるので、運転していてかなり楽になる実感があります。
レベル2を利用していると、あくまで「運転のアシストをしてもらえる」くらいの感覚です。これがレベル4になると、一定の条件下であれば、人間の代わりに自動運転システムが全ての操作を担ってくれるようになります。
そうなると、ドライバーが不要になりますよね。ドライバーを雇わずにバスを運用できるようになるので、1人当たりかつ毎月で数十万円の人件費を削減できます。バスという大型車両を乗りこなす技量を持つ人材を採用したり、採用後にトレーニングしたりする手間・費用も不要になります。
「過疎地では医師不足が深刻になっている」なんていう話を聞いたことがあるかもしれませんが、同じように地方の公共交通機関においては、ドライバーなどの担い手を確保しづらくなってきています。
地方で、バス運行継続が課題に
地域住民の足となっているバスの運行を継続するため、国土交通省は地域公共交通確保維持改善事業費補助金
(自動運転社会実装推進事業)を創設しました。令和6年度にはここまで取り上げた石川県小松市や埼玉県深谷市をはじめ、東京都、京都府、愛知県、大阪府大阪市など、全国各地の自治体が推進する99事業が補助金の交付を受けています。
ひたちBRTレベル4自動運転移動サービス出発式(出所:経済産業省)
こうした国の後押しもありますから、私たちにとって一番早く身近になる自動運転は、自動運転バスになるかもしれません。既に茨城県日立市、愛媛県松山市でレベル4の自動運転バスが営業運行しています。あなたがお住まいの地域でもそう遠くないうちに自動運転バスを日常生活の中で見掛けるようになるのではないでしょうか。
自動運転100%を実現するには?
ただ、自動運転バスの実証実験が各地で進められる中で、いくつかの課題が見えてきました。
鳥取市の実証実験に関するレポートを見ると、自動運転バスが実験期間中に410.3kmを走行したものの、システムに任せて自動運転できたのは329.1kmと80.2%にとどまりました。人間による運転が必要になった原因の46.7%は「路上駐車回避」。交差点の付近や対向車が多い道路では路上駐車を安全に回避するのが難しく、人の手に任せる必要があったそうです。1車線狭路でのすれ違いや通学時間帯に歩行者・自転車が歩道外通行するといった「他車両等の影響」(36.6%)、信号の変わり目の見極めや右折待ち対向車が視界を遮るなどの「道路環境」(12.2%)なども自動運転を困難にする要因として挙げられています。
既に開始されている自動運転バス運行サービスにおいては、運行区間は限定的です。環境がある程度コントロールされる実証実験とは異なり、実際に運行させる道路の環境や状態、気候、サービスの利用者には多様性があり、日々変化するものです。バスが実際に走る現場の多様な環境や条件に柔軟に対応するために、人や障害物の検知や監視精度のさらなる向上や、バスを効率よく運行する方法などについても、引き続き課題を抱えています。
自動運転バスが全国各地に普及して、無人運転によって地域の足を担ってくれる――。そんな未来が今すぐに訪れるわけではなさそうですが、自動運転は一昔前までは夢の技術でした。それがここまで実用的な技術へと磨き上げられてきたわけですから、実証実験を通じて見えてきた課題もひとつずつ解決し、当たり前のように自動運転車を街で見掛ける日がいつか訪れてくれることでしょう。
参考資料:
令和5年度 鳥取市自動運転実証調査事業の検証結果について (2024年4月9日、鳥取市)
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